なぜ死ぬとき「貯金ゼロ」の方が幸せになれるのか? 資産をトラブルに変える「二つの脳の仕様」とは(レビュー)
使い道のない金は“ムダ”である
ウォール街のトレーダーとして成功し、ヘッジファンドのマネージャーを務めるパーキンスは、この矛盾に早くから気づき、「使い切れない富をもつ者は、どうすれば幸福になれるか」を考えるようになった。 ここで「使い切れない」というのは、数百億円、数千億円の資産のことではない。日本人(大卒男性)の生涯収入は3億から4億円(退職金や定年後再雇用の収入は含まない)で、これで結婚して子どもを育て、マイホームを購入し、老後のための貯蓄をしている。そう考えれば、(むろん個人差はあるものの)数千万円、数億円の金融資産でもほとんどのひとは死ぬまでに使い切れないだろう。 伝統的な社会では、もっとも大事なのは「イエ」の繁栄で、資産を子どもや孫に継承することが「幸せ」とされた。儒教では祖先を祀る者がいなくなると、魂は天に昇ることができず永遠にさまよう。だが現代社会ではこうした宗教観は薄れ、子どもには生前贈与で必要な額を渡せばいいと考えるひとが増えてきた。 パーキンスの本が共感を呼んだのは、「使い道のないお金は無意味だ」という、誰もがうすうす感じていながら口に出すのをはばかられていた真実を明快に述べたからだ。 パーキンスは、「お金は生きているうちに有効に使い、死ぬときにはゼロになっているのがもっとも有意義な人生だ」と語りかける。「ゼロで死ね」という主張は欧米の文化では異質なものかもしれないが、「諸行無常」や「すべては空である」という仏教の教えが社会に根づいた日本人には慣れ親しんだもので、だからこそ広く受け入れられたのだろう。 [レビュアー]橘玲(作家) 1959(昭和34)年生まれ。作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』が30万部超のベストセラーに。『永遠の旅行者』は第19回山本周五郎賞候補となり、『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞を受賞。2022年刊行の『バカと無知』も20万部を突破と、次々にベストセラーを生み出している。 協力:ダイヤモンド社 ダイヤモンド社 Book Bang編集部 新潮社
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