なぜ死ぬとき「貯金ゼロ」の方が幸せになれるのか? 資産をトラブルに変える「二つの脳の仕様」とは(レビュー)
「口座に放置されているお金をどうとらえるか」が幸福度を左右する
だったら、そのお金をどうすればいいのだろうか。この疑問に答えたことで、ビル・パーキンスの『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』は世界的なベストセラーになった。 原理的に考えるならば、お金とは国家が紙に印刷した信用状(紙幣)であり、金融機関のサーバーに格納されたデータでしかない。このようなかたちのないものは不安なので、富裕層はお金(紙あるいはデータ)を不動産や金(ゴールド)、あるいは高級ワインのような資産価値のある“モノ”に変えようとする。 しかしそうやって資産をどんどん増やしていっても、幸福になれるとは限らない。人間の脳は進化の過程で、よいことにも悪いことにもすぐに慣れてしまうよう「設計」されたからだ(経済学ではこれを「限界効用の逓減」として説明する)。 脳のもうひとつの特徴は、得したときの喜びよりも、損したときの痛みをはるかに大きく感じることだ。これも考えてみれば当たり前で、重大な失敗(果実のなる茂みに近づいたらライオンに襲われた)は脳に刻み込んでおかなくてはならないが、ちょっとした喜び(お腹いっぱい食べられた)にいつまでも満足しているようでは、より大事なこと(たとえば生殖)に努力しなくなってしまうだろう。 このふたつの“脳の仕様”から、多すぎる富は人生を幸福にするよりも、トラブルの原因になる。 宝くじで数億円を当てた幸運なひとたちを追跡調査したアメリカの研究では、最初は幸福度が大きく上がったものの、やがてもとの水準に戻るか、逆に不幸になることがわかった。友人や親族がおこぼれに預かろうと集まってきて人間関係が破綻し、孤独になってしまうからだという。 同じくアメリカの超富裕層を調べたレポートは、スーパーリッチたちが富によって面倒に巻き込まれていると感じていることを明らかにした。莫大な資産を管理するためにひとを雇うと、こんどはその管理者を管理しなければならない。恵まれすぎた子どもたちは努力する意味を見つけられず、どうすれば自分のアイデンティティを確立できるか迷ってしまう。