なぜ死ぬとき「貯金ゼロ」の方が幸せになれるのか? 資産をトラブルに変える「二つの脳の仕様」とは(レビュー)
お金はあればあるほどいい。大金持ちはさぞかし幸せに違いない――。 昨今の物価高に苦しむ方なら、きっとこう思うこともあるだろう。しかし、どうやら現実はそう単純でないらしい。 『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』という3年以上前に刊行された本が今なお読まれ続け、34万部を超す大ヒットとなっている。タイトルを直訳すると「ゼロで死ね」、つまり死ぬときに貯金は残すな、という意味になる。豊かで幸せな人生のためには、貯金をしていてもダメだというのだ。 本書を読み解き、その理由に人間の「二つの脳の仕様」が関係していると指摘するのは、ベストセラー作家の橘玲氏だ。これらの脳の仕様により、多すぎる資産は人生を幸福にするどころか、トラブルの原因になるのだという。一体どういうことなのか、橘氏に解説してもらった。
富裕層の裾野が広がっている
世界的に経済格差が拡大し、先進国でも貧困が大きな社会問題になっている。しかしその一方であまり指摘されないのが、新興国を含めて膨大な数の富裕層が誕生していることだ。 日本が「失われた30年」で停滞しているあいだに、世界の富は大きく膨らんだ。これによって、ジェフ・ベゾスやイーロン・マスクのような、個人資産30兆円(約2000億ドル)を超える国家に匹敵する富をもつ者が登場したが、これは富のピラミッドの裾野が広がったことも意味している。 クレディスイスのレポート(2023年)によると、世界には資産100万ドル≒1億5000万円を超えるミリオネアが6000万人もいる。その結果、かつての富裕層の基準はミリオネアだったが、いまや「スーパーリッチ」と呼ばれるのはビリオネア(資産10億ドル≒1500億円)以上だ。 お金で幸せは買えないとされるが、同時に、お金があれば幸福になれるとも信じられている。これはどちらも正しく、今日の食費や来月の家賃を払えるかもわからない貧困層がまとまった収入を得れば幸福度は大きく上がるだろう。 しかし、生きものとしての人間が物理的に使えるお金には限界がある(毎日、ミシュランの星付きレストランで食事をしていたら成人病になってしまう)。誰もがお城のような豪邸に住んだり、スーパーカーを乗り回したり、プライベートジェットやクルーザーを保有したいわけではないだろう。こうして富裕層の多くは、世間一般の「ゆたかな生活」をしていても口座にある資産を使い切れないと気づくことになる。