忘れたくても忘れられない…私たちが抱えるコロナ禍のトラウマとは
パンデミックのトラウマを癒すには
でも、最後のロックダウンから3年が経過して、人々は当時の記憶と向き合い始めた。エディンバラに住む心理療法士のイーマ・オマホニー氏は、この1年で2020年と2021年の出来事について話し合おうとするクライアントが増えたと言う。その中の1人はいま、ロックダウンで新規事業が失敗し、経済的な大損害を被ったことに対する怒りと向き合っている。 その一方で、大学生活がオンライン化して友達や楽しい思い出がほとんどできず、うつ病になった人や、パンデミック中に現れた強迫性障害の症状(執拗なまでに手を洗ったり、細菌を恐れたり)が一向に収まらない人もいる。「2020年から2023年の私たちはパンデミックの真っ只中にいて、多くの人が生き延びることに必死でした。ある日突然、自分でも『おっ』と思うような余裕が生まれるまでは」 また、トラウマが消化器系の問題などの形で体に現れる可能性を踏まえ、オマホニー氏は体を使うセラピー(ヨガやダンス)の重要性を強調している。 スヴァンベリ博士によると、トラウマを乗り越えると言っても、単にトラウマ治療のアベイラビリティを高めるだけでは不十分。「メンタルヘルスのクリニックを含む医療機関や教育機関で働く多くの人も、パンデミックで深い心の傷を負いました。この4年間で彼らほど悲惨な状況を目にした人はいないのに、彼らの多くは今日も最前線で医療を提供しています。その彼らがNHSを十分に支えていないと批判されるのは極めて不当です」 歴史的に人間社会は、ストーリーテリング、人と人とのつながり、儀式的な行いを用いることでトラウマ的な体験を乗り越えてきた。そのため、「トラウマを克服した経験を持つ人が主導するコミュニティ・プロジェクトのようなもので、この数年間の出来事に集団としての意味を持たせ、その人生のステージの幕引きをする、というのはいい考えかもしれません」 スヴァンベリ博士いわく、集団的トラウマの治療に際しては、集団を個人として見るのがポイント。「本来なら、不安でいっぱいの人(集団)をなだめて、体を休ませ、フル回転していた神経系を落ち着かせ、そのうえで自分の身に起きた出来事に向き合って、その経験に意味を見い出し、それを人生の一部として受け入れる方法を考えるためのスペースを与えてあげるのが筋でしょう。でも、残念ながら現在の私たちは、そのトラウマを抱えた不安な人に『黙って乗り越えなさい』と言いつけて、その人たちがバランスを崩したら嘲笑ったり無視したりするようなことをしています」 アレクサンドラも「政府がパンデミックがあったことさえ認識しようとしないのは悲しいことです」と不満を口にする。「亡くなった大勢の人々を追悼する日もありません」 権力者による救済措置も役立つだろう。「政府の責任逃れは国民に深い悲しみと内部抗争をもたらしました」と話すスヴァンベリ博士は、政治的指導者が私たちの集団的回避を扇動していると信じてやまない。「一旦トラウマ的な記憶が処理されると、私たちは責任の所在を考え始め、過失や悪事に対する救済措置を求める傾向が強くなります。悲嘆に暮れるだけでなく、正当な怒りも感じるようになります」 専門家らは、当面の間は集団的治癒と心的外傷後成長に焦点を当て、依然として危機的な状況にある人々への社会的支援を拡大するよう呼びかけた。どれもこれも、いまになって。モスコヴィッツ氏はニュースレターを次のように締めくくった。「最初のステップは私たちに問題があることを認めることです」 まずは、エルモの真似をすることから始めてみてはどうだろう。不安に満ちたコメントが多く寄せられたことを受け、エルモはフォローアップの投稿で次のように述べている。「わあ! エルモ、聞いてよかった! 友達の様子を尋ねるのは大事なことなんだね」 ※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。