忘れたくても忘れられない…私たちが抱えるコロナ禍のトラウマとは
若い世代が抱える苦悩
もちろん、この世界には、このトラウマを避けることも、頭の中の引き出しにしまっておくこともできない人が多くいる。医療現場の最前線で働く人々、新型コロナウイルス感染症の長期的な後遺症と闘う人々、長引く医療崩壊でメンタルヘルスのケアが受けられない人々は、みな間違いなくトラウマと生きている。 スヴァンベリ博士は登校拒否をしている子どもの数についても指摘している。英国では、2022~2023学年度の「教育を受けていない」子どもの数が前年度と比較して23%増加した。複数の新聞が大々的に報じたように、これが憂慮すべき現象なのは間違いないけれど、スヴァンベリ博士に言わせれば、むしろこれは当然のこと。 「ロックダウン後の私たちは、集団で悲しむというプロセスを踏んでいません。私たちには、変化(リモートワークやソーシャルディスタンスに徹する日々から“普通”の生活を取り戻すまでの過程)はおろか、自分の身に起きたことを現実として受け止める暇さえありませんでした。(にも関わらず何事もなかったかのように黙っているのは)まるで集団的な否認です。これから小学生になる子どもたちは『それまでの世代と違う』と言って、やむを得ず就学準備不足であることを嘲笑する記事も見かけます」と語るスヴァンベリ博士は、信じられないといった表情だ。 「現実を認めることもサポート体制も整えることもせず、ただ人を強いストレスにさらしておけば、身体的および精神的なウェルビーイングに影響が出て当然です」 ロンドン南西部に暮らすフォトグラファーのドナ(41歳)は、学齢期の子どもたちへの影響を嫌というほど知っている。10歳になる彼女の息子は2022年初頭から病気不安症の症状を見せ始め、その年の10月末(第2次ロックダウンから1年後)に胃腸炎を発症した。「彼が泣きながら『どうしてウイルスはいつも僕たちを殺そうとするのか』と言った瞬間、気付いたんです。彼が病気不安症を患っていることに。病気になるのが怖くて、家から出たがらないこともあります」 ドナ自身も、不安障害のカウンセリングを受けている。「パンデミック前は、あまり心配するタイプじゃなかったんです。ストレス要因は他にもあって、コロナ“だけ”ではありません。でも、私も夫も自営業なので、ロックダウン中は長い間収入がありませんでした。そのせいか、いまでも知らず知らずのうちに『もう仕事が来なかったらどうしよう? 収入がなくなったらどうしよう?』と考えてしまうのです」