刑務所の前で「出待ち」を毎朝続けるひとりの男性、何をしている? 「刑務官はいい顔をしないが、やめられない」同行して分かった理由と覚悟
冷たい風が吹きすさぶ2月の早朝、大阪刑務所の前で“出待ち”を続ける男性がいた。松浦未来さん(37)。お目当ては、フルに刑期を終えて釈放された「満期出所者」たち。 【写真】刑務所を出て、蜂蜜を作る女性たち
松浦さんは、人影が現れるのを今か今かと待ち構え、刑務所の黒い正門の向こう側を凝視している。刑務所はいい顔をしないが、それでもやめるつもりはないという。松浦さんは何者なのか。そして何が松浦さんを駆り立てるのか。(共同通信=武田惇志) ▽終わりの日 松浦さんは、実は出所者だ。 中学3年の時から、大阪・ミナミのホストクラブで働いた。夜の街になじむにつれ、薬物の快感を覚え、密売人と知り合うようになった。「学も経験もない僕でも、これやったら稼げるなあと思いましてね」。洋画に出てくるようなギャングスターに憧れ、一獲千金を目指したという。 「日銭を稼ぐためにやってたわけじゃないんです。どんどんお金を稼ぎたいと。だから当時はものすごく忙しくて。携帯も4、5台持ってて、ひっきりなしに電話が鳴っては『今から行きます』とやりとりしてました」 密売で大金を動かしていたが、「いつか終わりが来る」と常に意識していた。逮捕されるか、トラブルに巻き込まれて殺されるか。そうなる前にやめたかったが、一度つながりができた悪い交友関係から逃れることは容易でなかった。
そして、その日はやってきた。 2015年5月、一緒に暮らす彼女が妊娠した。うれしくて、彼女のために朝食を買いに自宅を出た。そこで待ち受けた“キンマ”(近畿厚生局麻薬取締部)に逮捕される。 接見禁止が付き、弁護士以外とは会えない日々。その間、松浦さんの母親悌子(なおこ)さんは彼女に「こんな息子の子では幸せになれないから、無理して出産する必要はない」と伝えたが、彼女はこう答えたという。 「せっかくできた子どもですから、子どもと2人で出所を待ちます」 松浦さんは出産の知らせも弁護士から受け取った。最終的に懲役4年8月の判決が下された。収監先は大阪医療刑務所だった。 ▽各地の刑務所を転々 逮捕された松浦さんは安堵も感じていた。 「ようやく終わった。一度でも捕まったら、この道で生きることは終わりにしようと思っていた」 刑務所では時間を無駄にせず、高卒認定を取り、電気工事士や溶接、消防設備士など計12種の国家資格を取得。ただ、資格の職業訓練のために各地の刑務所を転々とすることになった。