刑務所の前で「出待ち」を毎朝続けるひとりの男性、何をしている? 「刑務官はいい顔をしないが、やめられない」同行して分かった理由と覚悟
声をかけられ時は「一瞬、ドキっとしたな」と振り返る。働いていた会社の寮に帰るつもりだったため、その場では申し出を断ったが、寮にはすでに自分の部屋はなかった。刑務所にいた間は寮費が払えず、強制退去させられていたためだ。松浦さんにもらった名刺を頼りに電話をかけ、支援を求めたという。 現在は、最低賃金で雇用契約を結ぶ「就労継続支援A型」の作業所に通っている。他の利用者を誘って散歩に出歩いたり、ホーム内の雑務を率先して手伝ったり、「隊長」のニックネームで頼りにされている。「ここでは、松浦さんがおってくれるから。ほんと感謝してる」。男性はそう、照れたように笑った。 同じくグループホームの住人で、解離性同一性障害のある男性(55)は、刑務所からの紹介で昨年5月に松浦さんと知り合った。 酒を飲んで暴行事件を起こし、罰金30万円。彼も支払いができず、2カ月間の労役となった。拘束されている間は家賃が払えず、退去させられていた。
男性は北海道・苫小牧市出身。「あっちこっちに行き、流れ着いたのが大阪」。実家の家族とは30年以上連絡を取っていない。妻と離婚後に子どもを一人で育てていたが、その後、道を外れた。 以前に窃盗の罪で服役しており、出所後に刑務所の同房者に誘われる形で悪質な貧困ビジネスの餌食になった。「たこ部屋」のような窮屈な作業員宿舎に住み込みで土木作業に従事させられ、腰や膝を痛め、現在も病院に通院している。男性は今回の出所で、ようやく安息の地を見いだした。男性は言う。 「今回も、同じ事を繰り返してしまわないか、再犯が怖かった。今は松浦さんがちゃんと話を聞いてくれて、怒るところは怒ってくれる」 ▽毎日、本気で ここまで、決して順調な道のりではなかった。目に入った物件をひたすら回ってグループホームの計画を持ちかけたが、精神障害者らが入居すると聞いたオーナーに断られ続けた。社会の冷たさを感じずにいられなかった。