刑務所の前で「出待ち」を毎朝続けるひとりの男性、何をしている? 「刑務官はいい顔をしないが、やめられない」同行して分かった理由と覚悟
幼子を抱える彼女に代わって毎月、面会に来てくれたのが悌子さん。遠方から来ても、面会時間はわずか15分程度。松浦さんから「来なくていいから」と言われていたが、「迎えに行ってあげられるのは自分しかいない」と続けた。 4年後の2019年11月、仮釈放が認められ、山口刑務所から出所。娘は4歳になっていた。待ち続けてくれた彼女との婚姻届も出した。 出所後は個人事業主となり、仕事を通じて、北海道で居住支援に携わる法人に知り合いができた。密売人時代の友人には身寄りがない人もいて、出所する度に迎えに行った経験も少なくない。居住支援の話を聞き、そうした友人たちの顔が頭に浮かんだという。 「自分がやりたいことが詰まっている世界だ」。そう思い立ち、2023年4月に立ち上げたのが居住支援を行う株式会社「TSUNAGU」だ。自身が家族に助けられて更生したように、手と手をつなぐ暖かい人の輪を意図して名付けた。
▽「帰る場所ありますか?」 今年2月。どんよりとした冬空の朝。紺色の制服を着た刑務官たちが、堺市の大阪刑務所に続々と出勤していた。清掃担当の女性職員の姿も見える。 満期出所者たちは、午前7時20分ごろから数十分以内に、刑務官に連れられて出所するという(土日祝日は午前8時20分ごろ~)。刑期を終える前に一定の条件下で社会復帰する「仮釈放者」が多い木曜日を除いて毎日、松浦さんは刑務所の前で待つ。起床は午前5時という。 午前7時から1時間ほど松浦さんと待ち続けたが、この日は誰も姿を現さなかった。 「こんな日の方が多いですよ。いつ出てくるか、全然わからないんで」。彼は事もなげに言う。 出所者が出てきた時は、駆け寄って名刺や会社のパンフレットを渡す。そしてこう声を掛ける。 「突然すみません。多くの方が帰る先もなく出所されていますが、お困りではありませんか?」 帰る場所がない場合、自身が取り組む居住支援やグループホームを案内している。