防災心理学者・矢守克也 「避難して災害が起きなくても、空振りではなく、素振りと考えて。「ふだん」と「まさか」を近づける《生活防災》が大切」
◆避難したことがムダになってもいい 矢守 私は今回の能登半島地震の被災地にも調査に入りましたが、なかでも印象に残ったのは、津波被害に遭った集落の方のお話です。「徹底した避難訓練のおかげで、間一髪、住民の皆が無事に避難できた」と。やはり努力は実るのだと思いました。 世の中には「避難しろと言われたからしたのに、災害なんて起きなかった。骨折り損だった」と言う人がいますが、私はよく、「空振りではなく、素振りと考えよう」と言っています。 結果的に何も起きなかったとしても、万一のために準備して避難するという経験がないと、いざという時に逃げられないものなので。 紺野 99回何ごともなく終わっても、100回目に本当の大災害に見舞われるかもしれない……。 矢守 そうなんです。健康のために毎年人間ドックを受けて、「何も悪いところはありません」と言われて、「ああ損した、ムダ金を使った」と思う人はいませんよね。たとえ空振りに終わっても避難することが大事です。 紺野 そう考えるとわかりやすいです。あと、絶対に地域指定の避難所に逃げたほうがいいのでしょうか? 行くには遠い場合などもあると思うのですが。
矢守 そこは大事なポイントです。自治体が指定している避難所は川が大規模な氾濫を起こしても、絶対に水が来ないような場所になっています。ですから実際は、そこまでの事態にはめったになりません。もう少し小規模な水害だったら、無理して遠くの小学校まで行かなくても、隣の3階建てのビルに避難させてもらえば十分というケースもある。 ですので、ふだんからそういう「セカンドベスト」な避難場所をチェックしておくことが大切です。自治体指定の避難所は100点満点だけれど、60点でもいいからほかの場所を見つけておくと安心感が増すでしょう。 紺野 避難所が遠いと、足腰が弱っている高齢者の方や障害がある方などは大変ですものね。 矢守 西日本豪雨の際に岡山・真備町で亡くなった51人のうち42人のご遺体は自宅の1階で見つかり、そのうち21人は2階建ての家にお住まいでした。あっという間に水が来ますから、2階に上がるのが間に合わなかった方もいると思います。 紺野 たかが2階くらいと思わず、日頃から上がる訓練をしていたほうがよさそう。 矢守 その通りです。さらに言うと、足腰が弱っている方でも避難をあきらめず、なんとか「玄関先まで出てくる練習」をしていただきたいのです。 玄関先でペンライトやホイッスルで合図すれば、誰かが気づく可能性が高まりますし、ご本人の命を救うと同時に、救助してくださる方の活動も助けることになりますから。
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