防災心理学者・矢守克也 「避難して災害が起きなくても、空振りではなく、素振りと考えて。「ふだん」と「まさか」を近づける《生活防災》が大切」
◆避難するきっかけをあらかじめ決めておく 矢守 避難したほうがいいのに、「今回も大丈夫」と考える人が逃げ遅れないよう、どうしたらいいか。私が作った言葉に「避難スイッチ」というものがあります。その場のいきあたりばったりの判断ではなく、「何をきっかけに避難を始めるのか」を、あらかじめ決めておくというものです。 川の近くの住人は「川の真ん中の岩が見えなくなったら逃げる」などと目安を決めておく。過信は禁物ですが、西日本豪雨の時は、実際にそれで助かった人がいました。 紺野 自分の身近にあるものを目印に、行動するのですね。 矢守 私が聞いた話で、川沿いのバイク屋さんが常に水位を注視していて、危険を感じると店頭のバイクを高台に移動するのだそうです。近隣の方たちはそれを見て「これは危ないぞ!」と避難スイッチを入れる、と。 紺野 他力本願ですが、一つのサインですね。それこそ地方だと、防災無線もありますが。 矢守 情報はとても大事です。防災無線や市区町村の防災情報サービス、テレビ、ラジオ、スマホやパソコンなど、自身が使えるツールを活用し情報を入手して判断してください。ただ、メディア発信の情報を待ちすぎて逃げ遅れないよう注意して、柔軟な対応を心がけましょう。 紺野 最近の気象情報や警報は、すごく細かいですね。 矢守 昔は「東京都に大雨警報が出ました」くらいだったのが、今では市区町村単位、さらに細かい情報提供がされています。 紺野 以前は「明日の午後から暴風雨でしょう」と予報されたら、「じゃあ今日のうちに」と雨戸を閉めたり、窓を補強したり、大雑把なりに対応したものです。 矢守 ところが今はスマホの雨雲情報で、「まだ隣の県だ。隣町だ」とチェックできる。それが裏目に出て「本当に自分が危ない目に遭うまで何もしない人を生んでいる」とも言えるんです。 紺野 情報が親切すぎるために、まだ逃げなくていいだろうとなってしまう。難しいですね。
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