放線菌がつくる天然物質、新型コロナウイルスの感染抑制 名大など変異株の新薬開発に期待
更に、変異が多い新型コロナウイルスの特徴に対応できるかどうかを検討した。新型コロナウイルスの変異は何度も確認されているが、これらはタンパク質の変化なので、糖鎖には影響がなく、プラディミシンAはいずれのケースでも作用できる。もし糖鎖自体が減少する変異が起きたことを仮定した場合、バリア自体が「手薄」になることを意味するため、ヒトの抗体によって免疫での排除が起こり、感染を防ぐことができる。つまり、どちらに変異しても対応できると中川准教授らは考えている。
なお、別の研究で同じように糖鎖に結合するタンパク質「レクチン」も新型コロナウイルスを抑制するという報告がある。しかし、レクチンは高分子タンパク質のため、大量に作りにくい、変性しやすい、有害な抗原抗体反応を引き起こす危険性があるという欠点があった。プラディミシンAはこれらの欠点をうまくカバーできることが期待できるという。
欧州の研究グループはプラディミシンAが抗エイズウイルス作用を持つことも発見しているという。中川准教授は「糖を選択的に結合するということと、低分子であることから創薬しやすいはずだ」と話す。実際の薬にするにはより低濃度で効果が発現する必要があり、今より10倍の活性が求められる。今後はそのような誘導体を作りたいという。名大と富山県立大学だけがこの放線菌の培養技術を持っているため「他国よりたくさんのプラディミシンAを採れるアドバンテージがある。新薬にできるよう、研究を進めたい」としている。
研究は日本農芸化学会、長崎大学高度感染症研究センター、日本学術振興会の科学研究費助成事業の助成を受けて行われた。成果は4月18日にオランダの化学誌「バイオオーガニック アンド メディシナル ケミストリー」電子版に掲載され、7月3日に名古屋大学、長崎大学、広島大学、富山県立大学、大阪大学が共同で発表した。