小春日和の映画館で浸りたい3作。
『ヴァラエティ』 ベット・ゴードン(監)
70年代末から80年代にかけて、アングラカルチャーの震源地だったNY。その渦中で頭角を表した、知る人ぞ知る鬼才ベット・ゴードンの作品を集めた特集上映「ベット・ゴードン エンプティ ニューヨーク」が開催される。中でも注目は、長編第1作『ヴァラエティ』。1980年代のNYを舞台に、ポルノ映画館「Variety」でもぎりをする女性が、彼女をナンパしてきた常連客の男を尾行するうちに、この街の裏の顔を垣間見るというエクストリームな探偵映画だ。脚本を『血みどろ贓物ハイスクール』などで知られ、”女バロウズ”の異名を取るキャシー・アッカー、音楽をジャームッシュ作品の初期を支えたジョン・ルーリー、さらにはドキュメンタリー『美と殺戮のすべて』の記憶も新しい写真家ナン・ゴールディンまでが脇役として登場するなど、一番アツかった時代のNYアンダーグラウンドの記憶を真空パックしたような作品だ。特集上映「ベット・ゴードン エンプティ ニューヨーク」は、11月16日から渋谷シアターイメージフォーラムで開催。他にも『エンプティ・スーツケース』『エニバディズ・ウーマン』を上映。 11月はこんな映画を観ようかな。
『クルージング』 ウィリアム・フリードキン(監)
1970年代、NYでゲイ男性ばかりを狙った連続猟奇殺人事件が勃発した。その報に接してしたたかな衝撃を受けたのは、ウィリアム・フリードキン監督だ。なぜなら、犯人が自作『エクソシスト』に出演していた男だったから。その後、犯人と面会したというフリードキンが、事件に着想を得て1980年に手掛けたのが『クルージング』。このたび43年ぶりに再公開される本作が描くのは、身分を偽って夜な夜なゲイたちが集まるSMクラブに潜入する刑事が、犯人を探す過程でだんだんとアイデンティティクライシスに陥っていく姿だ。製作に当たって、フリードキンは徹底取材を遂行し、劇中では実際のSMクラブも登場。その意味で、上で紹介した『ヴァラエティ』と合わせて観ると、80年代のNYアンダーグラウンドのクイアな側面が、より立体的に浮かび上がってくるかもしれない。11月8日より公開。