晩婚化・少子化で「卵巣がん」が増えている!早期発見のために、婦人科検診で追加してほしい検査とは
医療ライターの熊本美加です。 先日、突然に届いた友人の訃報。新卒で入った会社の同期で、当時は昼も夜も、平日も休日も、とにかくずっとつるんでいた。その彼女が、いったいなぜ? 困惑し訪れた葬儀場には、残されたご主人とご両親の姿があり、祭壇には私のよく知っている笑顔の遺影が飾られていた。 「どうぞ、顔を見てやってください」と促されたが、棺の前で足がすくんで動けなくなってしまった。「冗談でしょ」「ねえ、何やってんの??」「意味わかんないよ……」、とブツブツ言いながらためらっていたけれど、意を決し棺を覗き込んだ。そこにはひと回りもふた回りも小さくなった彼女が眠っていた。こんな別れが来るなんて誰が想像しただろうか。友人の亡骸を目にして、堪えても堪えても涙が止まらなかった。 彼女の命を奪ったのは卵巣がん――。 「本人は治す気満々で、みんなに会えるように頑張っていたんだよ。抗がん剤治療をして、2回も開腹手術をしたけど、何もできずそのまま閉じた。播種(はしゅ)と言うんだけど、ほんとに種を撒いたようにがんが拡がってしまうんだ……」、とコロナ禍で在宅緩和ケアを選択し、最後まで看取ったご主人の言葉が忘れられない。 コロナ禍で会うこともままならなかったが、彼女は「余計な心配をかけたくない」と闘病を親にも隠していたという。私も知らせてほしかったという思いと共に、もし伝えられたとして、何かできたのか。会いに行って何か言えたのかと、ずっとずっと考えている。 彼女が闘っていた卵巣がんはどんな病気なのか。種を撒くように広がるとはいったいどういうことなのか。それを知りたいと、卵巣がんの第一人者である岡本愛光先生(東京慈恵会医科大学産婦人科教室)に話を伺った。
晩婚化・少子化時代で増えている卵巣がん
卵巣がんとは、卵巣の表面を覆っている表面上皮に発生するがんのこと。 卵巣は小さく体の奥にあるので、最初は症状がほとんど出ないため発見が遅れやすい病気です。お腹に水が溜まったり、圧迫感があって病院を受診した時には、すでに進行しているケースが多いといいます。 その上、卵巣がんは予後も悪く、腫瘍を完全に取り切る手術をした後に化学療法を施しても、2年以内の再発率は約50%。子宮頸がんや子宮体がんに比べると死亡率が高いのが特徴です。 罹患者は40代から急増し、50代、60代がもっとも多くなります。日本での患者数は昔に比べて増加傾向にあり、2019年のデータでは1万3380人が罹患し、死亡が5089人。 ▼卵巣がんの年齢調整死亡率と罹患率 卵巣がんがなぜ増加しているのか、岡本先生はこう話します。 「理由は主にふたつです。ひとつは少子化、晩婚化で女性の月経回数が増えていること。 排卵のたびに卵巣上皮が傷つき、修復される過程が繰り返されているので、その頻度が高いと遺伝子変化が起こりやすくなります。 妊娠中や産後の授乳期間は生理が止まるので、卵巣を休ませることができるのですが、昔に比べて出産回数も減り、授乳期間も減少しています。 もうひとつは、子宮内膜症からのがん化です。欧米型の高脂肪食が増えるなど食生活の変化によって、現代は子宮内膜症も増加傾向にあります。卵巣は生理のたびに少なからずダメージを受けているとお伝えしました。それが蓄積されると子宮内膜症から卵巣がんへと進展するリスクがあります」 生理は想像以上に卵巣に負荷をかけていることがわかります。亡くなった友人も妊娠・出産はしていませんでした。けれども、健康に人一倍気を遣っていて、専業主婦ですがご主人の会社の人間ドックを毎年受けていました。それなのにどうして、早期に卵巣がんを発見できなかったのでしょうか。
取材・文/熊本美加 構成/宮島麻衣
熊本 美加