ヒトがウマと競走して勝つにはどうしたらいいのか、そのためには何が必要なのか
ウルトラマラソンは心理的な闘い
ヒトが長距離を走るために進化してきたかどうかは別として、長距離走でウマに勝つことは持久的狩猟よりも難しい挑戦だ。 ほとんどの生物種は長距離走には適応していないが、コーツ氏によると、ウマは動物界でも屈指の持久力を備えているという。長距離走でウマに勝つことはヒトの持久力の高さを証明することであり、そのためには多くのトレーニングが必要だ。 コーツ氏によると、私たちが持久力トレーニングを始めると、細胞内のミトコンドリア(エネルギー生産に関わる小器官)の数が増えて、最大酸素摂取量(体が摂取できる酸素の最大量)が高くなる。細胞に酸素を運ぶため、心臓と筋肉の毛細血管が増えてくる。遅筋線維(ゆっくりと収縮し、効率的に呼吸を行う筋線維)も発達してくる。やがて心臓のサイズも大きくなり、より多くの筋肉を支えられるように体の組成も変化する。 とはいえトレーニングには限界がある。多くの持久系アスリートにとって、レースは身体的なエクササイズであると同時に精神的なエクササイズでもあるとティラー氏は言う。マラソン選手であっても、より長距離を走るウルトラマラソンに転向することは、大きな心理的挑戦となる。 2018年に学術誌「Psychology of Sport and Exercise」に発表された研究によると、ウルトラマラソンへの挑戦は、しばしば、自分の限界を試したいという心理的な動機と関連しているという。ほとんどのウルトラマラソン選手にとって、レースを完走するための重要な要素は、モチベーションと目標設定だ。 さらに、レースのパフォーマンスには心理状態が大きく影響することが、2018年に学術誌「Sport Psychologist」に掲載された研究によって示されている。自分への信頼とポジティブな自己対話は、レースを完走するのに必要なのだ。 「そのためには、体だけでなく心をコントロールする必要があるのです」とティーニー氏は言う。
文=Natalia Mesa/訳=三枝小夜子