「ハンバーグを知らず何を聞いても無言の子に絶望したことも」不妊治療を経て里親になった女性「35歳の私が最年少だった」
そういえば昔、子どもが「早く大きくなってお母さんに復讐してやる」って言っていたときに、私がよく言い聞かせていたことがあるんです。「恨んでいる間は、あなたの心はお母さんにつかまったままだよ。つかまっている間、あなたは幸せになれない。だから、あなたはお母さんなんか関係なく、勝手に幸せになりなさい」と。 それをずっと覚えていて、「ママがあんなふうに言ってくれたことが私にとって一番大きい。本当だなって思ったし、今、私は勝手に幸せって思っているから、別に親に会っても大丈夫だよ」って言ってくれました。
── すごくいい言葉ですね。 岩朝さん:やっぱり里親となる人が日々、点滴のように愛情を注ぎ続けることでたどり着けるときがあると思うんです。ひと晩や1か月で状況を改善できる魔法なんてない。ましてや里親に託される子どもたちは、普通の家庭の子よりも10倍以上の愛情や時間が必要かもしれないけれど、諦めないで一緒にいることで、子どもたちは人生を取り戻してくれるはず。親になったときには、きっと実の親とは違う親になることができると思っています。虐待、貧困といったいろんな負の連鎖を断ちきることができると思うんです。
それに、外ではカッコつけていても、うちに帰ったらパジャマを着てダラダラしていたり、病気になって弱ったり…そんな完璧じゃない大人の一面を見せることもけっこう大事だと思っていて。暮らしを重ねるってそういうことなんですよね。里親だけが子どもにできることが必ずあると思っています。 PROFILE 岩朝しのぶさん いわさ・しのぶ。1973年、宮城県生まれ。先天性の病気によりこれまで17回の手術を経験し、シングルマザーの母親に支えられ幼少期を過ごす。25歳で起業後、広告代理店業の代表に就任。不妊治療を経て養育里親となり、現在も現役里親として子どもを養育している。認定NPO法人日本こども支援協会 代表理事 一般社団法人明日へのチカラの代表理事 「ドコデモこども食堂」代表。
取材・文/高梨真紀 写真提供/岩朝しのぶ
高梨真紀