道頓堀で異彩を放つ「上方浮世絵館」の夫婦人情物語
大阪・ミナミを代表する観光地、道頓堀。水掛不動尊(みずかけふどうそん)で有名な法善寺(ほうぜんじ)の門前に、日本で唯一、上方(かみがた)の浮世絵を常設展示している「上方浮世絵館」がある。館長でオーナーの髙野征子(たかの・せいこ)さんが、ミナミの一等地に私設美術館を作ろうと思い立ったのは、夫の遺言がきっかけだった。 「とげぬき地蔵」近くには三菱の創業者も眠る…江戸期から華やかだった巣鴨
法善寺の門前にある私設美術館
久しぶりに道頓堀へ来た。世界各国から訪れた人々が、様々な格好でスマホをかざし、ぞろぞろと歩いている。グリコの看板や、かに道楽の動くカニなど、コテコテの立体看板がウリの、今や国際的な観光地だ。 「金龍ラーメン」の看板の龍は先頃、尻尾が隣の店舗にはみ出しているとして撤去されたが、近くのカニ料理専門店の看板のカニが、切られた尻尾の先を挟んで登場したことで話題になった。 その金龍ラーメンの角を50メートルほど南下した法善寺横丁の奥にあるのが法善寺だ。境内も、インバウンドの観光客でごった返している。ここにいる人たちの中で、「包丁一本、さらしに巻いて~♪」と藤島桓夫(たけお)が歌った『月の法善寺横丁』や、甘味屋『夫婦善哉(めおとぜんざい)』が、オダサクこと織田作之助の小説『夫婦善哉』の舞台になったことを知ってはる人は、どれくらいいるんやろう。苔(こけ)むした水掛不動尊は、外国人観光客にも水を掛けられ、以前よりますます水浸しの、水が滴(したた)り過ぎてびしょびしょのお不動さん、である。 そんなインターナショナルな空気に満ちた法善寺の門前に、「上方浮世絵館」と看板が上がる4階建ての小ぶりなビルがある。 「上方浮世絵館」はその名のとおり、上方=大坂の浮世絵を展示する私設美術館だ。1階はミュージアムショップ、2・3階は展示室、4階は、浮世絵摺(ず)りの体験などを行うイベントスペースとなっている。 私が訪れた9月末の企画展は「浮世絵竹づくし」(9月3日(火)~12月1日(日))で、竹にまつわる上方浮世絵を展示していた。他にも摺りの道具や版木(はんぎ)、刷毛(はけ)やブラシを手入れする鮫(さめ)の皮など、貴重な品々が展示されている。