LGBTQ+差別に対処する「仕組み」スウェーデン・ドイツ訪問記──連載:松岡宗嗣の時事コラム
反差別局
ドイツでは、デュッセルドルフ、ケルン、ベルリンの3都市を訪れた。ベルリンでプライドパレードにも参加したが、大通りを埋め尽くすほどの規模感に圧倒された。 ドイツも、スウェーデンと同様に2006年施行の「一般平等待遇法」によって、性的指向や性自認に関する差別が禁止されている。 この法律に基づき、政府には「連邦反差別局(Federal Anti-Discrimination Agency)」が設置されている。差別禁止法のない日本では、同様の政府機関として法務省に「人権擁護局」があるが、差別への対応ではなく、弱い者をかばい守るというニュアンスの名前からも、その姿勢の違いが見えてくる。 ドイツの行政機関を視察して印象的だったことは、法律を根拠に反差別のメッセージを発信し、NPOなどと連携し啓発や支援の取り組みを進めていく仕組みがあることだ。 ドイツは16の州で構成される連邦制だが、最も多くの住民がいるノルトライン=ヴェストファーレン州では、1996年から性的マイノリティに関する専門の部局が置かれている。 現在は、年間350万ユーロ(約3億5000万円)の予算から、LGBTQ+に対するカウンセリングや地元のLGBTQ+に関するネットワーク団体と連携したさまざまな助成や取り組みを行っている。 州内最大の都市で、ケルン大聖堂でも有名なケルン市では、市民のうち4割が移民のバックグラウンドがあり、1割が性的マイノリティだ。ケルンで毎年行われているプライドパレードはヨーロッパ最大と言われている。 市の取り組みとしては、例えば差別やハラスメントについて市民に通報を求めるポスターや、LGBTQ+の移民を支援する活動をしている市民団体と連携し、ケルン市内の約650箇所にポスターを掲示した。 近年は欧州でもトランス排除的な言説や動きが増えてきていると言われるが、ケルン市では、女性の安全のために夜間の女性のタクシー利用にクーポンを出すというキャンペーンを行った際、トランス女性も対象として含むなどトランスインクルーシブな取り組みが進められているという。