LGBTQ+差別に対処する「仕組み」スウェーデン・ドイツ訪問記──連載:松岡宗嗣の時事コラム
スウェーデンとドイツをめぐり、法律の基盤があることで、いかに「仕組み」として差別や偏見の被害に対処できるか、政府の反差別のメッセージを発信し、NPOなどと連携しながらさまざまな取り組みが進められるかを実感した。 一方で、法律があっても差別や偏見がすぐになくなるわけではない点を指摘する必要がある。 ドイツの福祉施設を訪問した際、あるスタッフから、施設を利用する高齢のゲイ男性のカミングアウトが非常に低いことを聞いた。ナチスドイツによるホロコーストによって多くの同性愛者が強制収容所に送られ、1994年まで同性愛は刑法で犯罪と明記されてきた。ここ数十年でLGBTQ+をめぐる状況が大きく変わったからといって、その時代を生きてきた当事者一人ひとりの内面がすぐに変わるわけではない。 労働組合を訪れた際、職場でのカミングアウト割合はそこまで高いわけではないと聞いた。差別禁止法ができて、わかりやすい差別は減った一方で、より陰湿な形での差別や偏見は残っているそうだ。 ベルリンを訪れた際、東西ドイツの分断の影響の根深さも耳にした。東西が統一して約30年が経ったが、依然として東と西には経済格差があり、LGBTQ+をめぐる認識においても東西での差があるという。 トランスジェンダーの法的性別変更に関する法改正が進んだ一方で、ドイツやスウェーデンでも、トランスジェンダーやノンバイナリーに対するバッシングが増えているという話を何度も聞いた。 ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州の調査では、近年、特に「ジェンダーの多様性」に対するヘイトクライムが約2倍に増えている。 LGBTQ+支援団体を訪問した際、クィアの高齢者向けに護身術の講座を開催していることを伺った。担当者の「自分の身を守る術を身につけることも、コミュニティへのエンパワーメントの一つだ」という言葉が印象的だった。 近年のバックラッシュの背景には、国際的な「反ジェンダームーブメント」の広がりがある。アメリカだけでなく、ヨーロッパでもハンガリーやポーランドなどを中心に、中絶やトランスジェンダーの権利などへの強硬な反発がある。 ドイツやスウェーデンでも、AfD(ドイツのための選択)やSD(スウェーデン民主党)などの右派が台頭。移民やトランスジェンダーの権利などが焦点化されているが、こうしたバックラッシュにどう対応していくかは、ドイツやスウェーデンでも課題として挙げられていた。