撮影：今村拓馬

国内の大企業が企業の卒業生コミュニティ「アルムナイ」を立ち上げる事例が相次いでいる。ただ「これが成功例」といえるものはまだ少ないのが実際のところだ。 【全画像をみる】6大商社「辞め人材」会に学ぶ。コミュニティ成功の3メソッド…三井物産・三菱商事・伊藤忠・住商・丸紅・双日 大企業は何のためにアルムナイをつくるのか。魅力的な卒業生が集まる、自発的なコミュニティをつくるにはどうすればいいのか。 そのヒントになりそうな事例を、先日、体験した。今回、その考察とともにお伝えしてみようと思う。

170名の総合商社出身者が集う「ビジネス交流会」

9月のある夜、都内のイベント会場で、大手総合商社6社の合同アルムナイ会がひっそりと開かれた。 会場に集結したのは約170人。いずれも三井物産、三菱商事、伊藤忠商事、住友商事、丸紅、双日といった大手総合商社の卒業生たちだ。日本の人材エリート集団ともいえる総合商社を飛び出した面々の中には、第一線で活躍する経営者や投資家も多数いる。 三井物産の卒業生有志主催のアルムナイ会「元物産会」運営メンバーの声掛けで、各社アルムナイの卒業生有志からなる15名の幹事団を結成し、年明けから半年以上の検討・準備を重ね、実現に至ったという。大手総合商社が合同でアルムナイ会を開くのは、関係者が知る限りおそらく「国内初」だという。 アルムナイというと「カムバック採用目的」で「中高年の会社員が多い」とイメージする人も多いかもしれないが、この会の参加者は、4割が40歳以下のいわゆる中堅層。また、参加者の属性としては3割が企業の代表や取締役で、一線で活躍する比較的若いビジネスパーソンの割合が高い。 ビジネス目的の交流会とはいえ、会場の雰囲気は大変和やかなものだった。 総合商社出身者という、それなりに「選抜された」人材が集まっているという期待値や、その場にいる人の出身母体や同僚が確実にたどれる安心感があるので、人の値踏みや売り込みに汲々とする必要がないからだろう。

合同アルムナイ会が盛り上がった、3つの「成功要因」

筆者はソニーグループの有志アルムナイ会（1100人規模）を運営するコミュニティ運営の専門家でもある。自身の経験も踏まえ、総合商社合同アルムナイ会が初回から盛り上がった要因は、主に以下の3つと分析している。 1）「来てほしい」ターゲットを意識 総合商社の卒業生といっても年代や属性は多様で、起業家や事業責任者以外の人々も多いはずだ。しかし今回、一線で活躍する若いビジネスパーソンの割合が高かったのは、その層にターゲットを絞ったからだろう。 合同イベントの発起人である「元物産会」橋本代表に聞いたところ 「40歳以下や経営者というレベルまで対象を絞ったり、サラリーマンを排除したりまではしていないが、外交的で前向きな人を集めたいという程度にはターゲットを意識した」 という。 ターゲットを絞ればニーズも明確になり、企画の的も絞れる。あくまで私の目線での肌感だが、「仕事を探している人」はターゲットにせず、ビジネスパーソンが必要とする「将来的にビジネスにつながる人々とつながれる場」に徹していたように思う。 2）参加したくなる「価値」が明確 総合商社の場合、その卒業生というだけで、ビジネス等で活躍しているという期待感を醸成できる。加えて、他の商社と合同という設定は、自社卒業生だけの会より多くの新しいネットワークが広げられそうだという期待を持たせる効果がある。 「商社出身者はスタートアップや大手企業、ファンドの幹部になっている人も多いので、将来的にビジネスを一緒にできる人とつながれるのでは、という期待感もあって参加してみた」（伊藤忠出身のVC代表、XTech社CEO 西條晋一氏） 加えて、「単なる交流会だけでは集客力が弱いと考え、上場企業の創業者や著名経営者など6名が登壇するパネルディスカッションも企画することにした」（橋本氏）というように、集まるだけではない、参加ベネフィットを明確にする工夫をしている。 3）キーパーソンを通じてターゲット層を勧誘 とはいえ、過去実績のない初回イベントでは「どんな人が来るか分からないから」と、参加を見送られてしまうかもしれない。この問題のシンプルな解決策は「人づて」で参加者を呼ぶことだ。活躍している人は同様の人とつながっているからだ。実際、「当初は、イベントページは敢えて非公開にして、幹事からの直接の声掛けやSNSのシェアで参加者を集めた」（橋本氏）という。