年末年始のキラキラがつらい 専門家「居場所のなさが浮き彫りに」
もうすぐ年末年始。デパートのおせち商戦のニュース、クリスマスのデートスポットの紹介――。キラキラした街のムードに、置いてけぼりにされてしまうような気持ちになったことはありませんか。都内でカウンセリングオフィスを営む公認心理師で、家族問題に取り組む、「ルポ 虐待サバイバー」の著者の植原亮太さんは、「年末年始をつらく感じる人は少なくない」と指摘します。 【写真】「ルポ 虐待サバイバー」の著者で、公認心理師の植原亮太さん ――年末年始がつらい、とはどういうことですか。 「そういう訴えをする人は、元々持っている『居場所のない感覚』が、この時期に強くなる人がほとんどです。私は個人的に『無所属感』を持つ人と呼んでいます」 「帰省しなくてはいけない、と思い悩む人もいます。家族を愛さなきゃいけない、と深刻に考えてしまうようです」 ――なぜでしょうか。 ■家族だんらんの押しつけも 「世間が家族だんらんムードを押し付けてくるからでしょう。年末年始が近づくにつれ、おせちやクリスマス商戦のニュースが流れます。家族がクリスマスケーキやおせちを囲んで楽しそうにしている。恋人同士も親密に過ごしている――。人間は社会的な生き物ですから、メディアやSNSなどを通じて見せつけられる『社会の多数派』に沿おうとしてしまいます。しかし、自分はどこか周囲とは違う――。そういうズレで苦しんでしまい、年末年始は家族との嫌な記憶を思い起こさせる時期になるのです」 ――嫌な記憶を思い出してしまう人がいる、と。 「虐待を経験したり、親から愛情を注いでもらえなかったり、といった心の傷を抱えた人は、人とのつながりを恐れています。そうして、ずっと孤立した人生を送ってきています。なので周りが幸せそうなこの時期は、いっそうこうした感覚が浮き彫りになるのだろうと思います」 「虐待を受けてきた人は、世の中に1、2割ぐらいはいるのではないかと思います。もちろん、それでも問題を抱えながらも頑張っている人もたくさんいます」 ――帰省しなくてはいけない、と思い込んで悩んでいる人には、どのようなカウンセリングをするのですか。 「どうして帰省しなくてはいけないと思うのですか、とたずねます。すると、『それが普通だと思うから』と答えることが多くあります。『普通』に自分を当てはめる必要はないことを伝え、改めて『本当の気持ちは?』と聞くと、たいてい『帰りたくない』と答えます。親への気持ちに折り合いがつくようになると、無理してまで帰る人が少なくなるようです」 「それでも『親に愛されたかった』という人もいます。それは普通の欲求です。でも、ちゃんと帰らなきゃ、親を敬わなければ、愛さなきゃ、と思っている時点で、すでにいびつな親子関係なのです」 ――どうしたらいいのでしょうか。 ■親が嫌だったら会わなくてもいい 「自分の気持ちに素直になるように、と伝えています。誰でも嫌な友達にはわざわざ会おうとしないはずです。親だからといって、会わなければいけないということはありません。『こんな家族に育てられた自分はかわいそう』と思えるようになって、親とも距離をおいて、『家族ごっこ』から降りることができる人もいます」
朝日新聞社