新入社員がみんなで学ぶ 旭化成の「新卒学部」
自分の志向に合ったテーマを選び、同期とともに学び合う「新卒学部」
――今回受賞した取り組み「新卒学部」は、CLAPを活用したラーニングコミュニティーとのことですが、なぜ個人で学ぶ機会だけではなく、コミュニティーをつくることにしたのでしょうか。 三木:単にプラットフォームを導入するだけでは人は学ばないだろうという想定のもと、自律的な学びを促すためにどう動機づけをすべきかを考えるワークショップをプロジェクトメンバー内で実施しました。「若手技術職」「管理職」などさまざまなペルソナを想定して、今の学びの状況はどうか、どんな時に学ぼうと思うだろうかと考えたところ、すべてのペルソナにおいて「誰かと学ぶ」「誰かから学ぶ」など、他者との関わりに関するキーワードが挙がったのです。学習というと一人で勉強するイメージがあったため驚きましたが、一方で非常に旭化成らしいと感じました。そこから着想を得て、コミュニティーを活用した学び方の構想を形作っていきました。 従来の一律型の階層別研修から自律学習を支援するラーニングコミュニティーへとシフトしていくことを考え、その先駆けとして実施したのが、2023年度からの新入社員向けラーニングコミュニティー「新卒学部」です。 ――「新卒学部」の概要について教えてください。 梅崎:「新卒学部」は、自分の志向に合ったテーマを選び、同期とともに学び合う9ヵ月間のコミュニティー活動です。6~9月の4ヵ月間が第1クール、1ヵ月の休憩期間をはさみ、11~2月が第2クールとなります。4月1日に入社して最初の2週間は全社研修があり、そこからは配属先に応じて事業別、職種別の研修が2週間から1ヵ月ほど実施されるのですが、「新卒学部」はそれらの研修が一段落して各職場に配属された6月からスタートします。配属先での業務開始とほぼ同時に「新卒学部」も始まるという形です。 「新卒学部」の活動内容としては大きく三つ。集合学習・ワークショップなどの全体コンテンツ、選択制のゼミ、そしてコミュニティーでの交流です。 一つ目は全体コンテンツです。社員の勤務地が全国に散らばっているためオンラインでの活動が基本ですが、「学びは同時に&一緒に」をコンセプトに、あえて同じ時間に集まって研修コンテンツを視聴してもらうようにしました。タイミングを合わせることで、リアルタイムでチャットなどによるコミュニケーションをとることができ、一緒に学んでいるという一体感を得ることができます。 また、各種ワークショップも実施しています。2023年度には、自身が目指す姿をカルタで表現するワークショップと、同期に対して自分の仕事を紹介するというワークショップを開催しました。ワークショップを通じて新しい気づきを得て、新たな学びのモチベーションにつなげてもらう狙いがあります。企画や資料は事務局で作成しましたが、運営は新入社員が自分たちで行いました。 二つ目は選択制のゼミです。第1クールでは事務局が用意した四つのゼミ「アドベンチャーゼミ」「プロフェッショナルゼミ」「クリエイティブゼミ」「ワークハックゼミ」の中から、興味のあるものや自身の志向性に近いものを選んで入ってもらいました。「新卒学部」というネーミングからもわかるとおり、大学をメタファーにしているので、ゼミの概要をまとめたシラバスで大学らしさを演出し、新入社員同士のコミュニケーションが生まれる工夫をしました。 三木:ポイントは、ゼミ選びの参考情報として、キャリアアンカーの診断を受けてもらった点です。例えばキャリアアンカーが「管理職タイプ」「奉仕・社会貢献タイプ」の人はアドベンチャーゼミ、「専門能力・職人タイプ」「自律と独立タイプ」の人は「プロフェッショナルゼミ」が向いているといった具合です。 梅崎:志向性が近い人同士で集まった方が、コミュニケーションが活性化しやすく、活動のスタイルも似ているのでやりやすいと感じました。例えばワークハックゼミでは業務効率化への関心が強い人が多く、お互いに便利なPCスキルを共有し合う企画が立ち上がっていました。プロフェッショナルゼミは専門職志向で学習意欲の高い人が多く、それぞれが自身の目標を立てて共有し、進捗共有し合いながら頑張るというやり方を自ら考えて実施していました。もちろんキャリアアンカーの結果で自動的にゼミが決まるわけではなく、あくまで参考にしてもらうだけなので、シラバスを見て興味を持った別のゼミを選ぶこともできます。 また、CLAPを活用した学習自体は個人で進めることが多いのですが、一緒に学んでいる感覚を持つために取り組んだのが、三つ目の活動内容であるコミュニティーでの交流です。具体的には、おすすめの動画コンテンツを他のメンバーに紹介したり、学んだことを仕事に生かした事例を共有したりすることで、学ぶモチベーションやきっかけづくりを行いました。 ――自律的な運営を実現するために、工夫したことがあればお教えください。 梅崎:ゼミやコミュニティーなどの箱を作っただけでは、何からやっていいのかわからない人が多いのではないかと考え、参加を促す仕掛けをいくつか用意しました。例えばTeamsへの投稿を促進するために投稿のテンプレートを作成したり、順番に発信してもらうリレーメッセージ企画を行ったりしました。結果的に、第1クールは、ラーニングコミュニティーの活用の仕方を学んでもらうための期間になりましたね。 第2クールでは、第1クールでの実践経験をふまえて、より自分たちで主体的に回していけるように自由度を高めました。具体的には、第1クールでは集合学習やワークショップ、ゼミの枠組みなどは基本的に事務局の方で企画していたのですが、第2クールでは企画段階から彼らに任せ、自主的に運営してもらうようにしました。 これは、狙って設計していたわけではありませんでした。もともと第2クールも四つのゼミから選ぶ方式で考えていたのですが、第1クールで「もっとこういうゼミが欲しい」という声が上がるようになったため、やり方を変更したのです。本人たちの主体性が想像以上に大きかったので、これであればもっと任せられると考えて第2クールはゼミを自分たちで立ち上げられるようにしました。 ――第2クールでは、例えばどんな内容のゼミが立ち上がりましたか。 梅崎:2023年度は七つのゼミができました。具体例を挙げると、「女性のキャリアについて考えるゼミ」や「外国語ゼミ」、ライフプランや資産形成について学ぶ「目指せ!大富豪ゼミ」、資料作成のデザインを学ぶ「みやみんゼミ(見やすいって何なんやろかってみんなで悩んで言語化してみるゼミ)」などです。 ゼミを立ち上げたいと手を挙げてくれた人が20人ほどいたので、彼らを集めて、やりたいことをワークショップ形式で考える時間を設けました。やりたいことが近いケースは統合するなどして最終的に七つに分けました。そしてゼミごとにPRシートを作成し、ゼミメンバーを募集すると、第2クールのゼミ参加は任意にもかかわらず、半数の人はいずれかのゼミに所属するという結果になりました。 第1クールでのイベントは集合学習やワークショップなど事務局が企画したものがメインでしたが、第2クールはゼミでの勉強会がメインになっていましたね。例えば大富豪ゼミでファイナンシャルプランナーの方を講師に呼んで少額投資非課税制度(NISA)講座を開いたり、外国語ゼミでは英語縛りでボードゲームをしたり。ゼミごとに自分たちのやりたいテーマについての勉強会を企画していました。 また第1クールと同様に、ゼミとは別に全体コミュニティーを設け、全員参加必須としました。運営も企画メンバーを募り、彼らに中心となって運営してもらいました。お互いの関係構築や学び合う風土の醸成を目指した企画を考えて実施してもらったのですが、関東圏、関西圏など地区ごとに対面で会う交流企画などを自主的に開催していました。事務局は場所代などを支援したくらいで、ほとんど彼らが自主的に企画して実施していたので、私もすべての詳細を把握していないくらいです。