河合優実主演ドラマの原作ファミリー 「そうか。家族では、ダメだったのか」 ダウン症の弟がおしゃべりになった理由
ダウン症で知的障害のある弟と、車いすユーザーの母。家族との日常をユーモアたっぷりに綴ったエッセイで人気の岸田奈美さん。河合優実さん主演のドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(NHK毎週火曜22時~)は、岸田さんエッセイの第1作目が原作です。 【写真】この記事の写真を見る(5枚) グループホームに通い始めた弟が、ある日の食卓で突然!? そしてドラマの沖縄ロケ見学で目にしたものは……。最新エッセイ『国道沿いで、だいじょうぶ100回』より「おしゃべりは突然に」を抜粋して紹介します。
弟からのまさかのオバチャンツッコミ
革命は、漬物とともに、食卓へ訪れた。 週末、母とわたしと弟の3人で、お夕飯を食べていたときのことである。 「なんやこれ……」 「むっちゃ美味しい……なんて名前のやつ?」 「えーと、“めしどろぼう〞って書いとる」 あまりのウマさに隣の家から米を盗んで来るという意味。人の道を踏み外させるほど業の深い漬物が、我が家にやってきたのだ。 「漬物と米だけでええわと言うたらそれは老婆の始まりやと思ってたけど、これは始まってしまうわ」 「奈美ちゃんがこっちの世界に来てくれてうれしい」 母とガツガツやってると。 「なにをいうてるねん。いややわー、ほんま」 ピタリ。わたしたちの箸が止まった。 いま、オバチャンがおった? そんなバカな。 わたしと母のほかには、弟しかいない。 お茶碗片手に母が驚愕しながら、弟に聞く。 弟はニンマリと笑った。 「いうたやん、もう、いややわー」 オバチャンがおった。あまりにハッキリした発音だった。 脈絡もなく突然、ネイティブなオバチャンが出現したことにより、食卓は騒然となった。 めしどろぼうによって狂わされた人間の幻聴かと不安になり、後日、知人にも立ち会ってもらったところ、バッチリ伝わった。
駅前留学じゃあるまいしたった2カ月で…
ある日、わたしが席を立つと。 「なみちゃん、カギわすれとる。ほんまにあかんで!」 弟がわたしを呼び止めた。しゃべっている。はっきりと。ろくに言葉をしゃべれなかったはずの弟が。 変わったことといえば、弟がこの2か月前、家を出て、グループホームで同じくダウン症の人たちと暮らしはじめた。とはいえ、駅前留学じゃあるまいしたった2か月やそこらでこんなことが起きるだろうか。 弟から、カギを受け取る。 「なみちゃんはもう、ほんまに、あかんわこれ」 「やかましいわ」 イラッ。海外に短期留学した友人が、夏休み明けに帰ってくるなりルー大柴みたいなしゃべり方になったときと同じ成分のイラッ。