「リオ五輪前、リオ五輪以上の強さ」で73キロ級金メダル“無双”大野将平が制したもう一つの内なる戦いとは?
プレッシャーという名の内なる戦いがあった。 「自分との戦いの1日でした」 世界柔道で「大野の金メダルは鉄板」だと思われる期待と激励の渦に巻き込まれていた。 「どうせ大野は勝つだろう、という周りからの声をヒシヒシと感じていた。甘い誘惑があった。流される気持ちもあったがプレッシャーが力になった。その期待に応える柔道を見せたかった」 決勝ラウンドを前に、「じっとしていたら眠たくなる」と、日本武道館の周りを散歩した。歩きながら自問自答を繰り返した。チャンピオンであることを忘れて、挑戦者の気持ちで挑む。最後の最後。それが、勝利を宿命づけられた男が邪念を振り払うための儀式だったのかもしれない。 リオ五輪が終わって畳から離れた。天理大学での大外刈りをテーマにした修士論文に取り組んだ。追われる立場になった人間は、気持ちの持ち方に苦しむ。五輪3連覇を果たした天理大の大先輩である野村忠宏氏も、五輪と五輪の3年間の間に、柔道を離れ、海外に住居を移すなどして充電期間にあて、モチベーションを高めて強くなった。大野も、1年の休養で柔道への飢餓感を作った。昨年2月に復帰すると、海老沼匡、橋本壮一らとの壮絶な国内ライバル争いを勝ち抜き、世界選手権への切符を手にした。 リオ五輪以来となる世界の舞台を制した大野を井上監督は「リオ前、リオ以上の強さを身に着けている」と表現した。 「どのような形になっても研究されていても跳ね返す技術、力強さを身に着けている。世界は久しぶりだが、ブランクを感じさせない精神力を感じた。一回り大きくなって帰ってきた」 具体的な大野の勝因分析を問われ「勝因と言われても……すべてです」と言葉に困った。 「攻めても投げ切れる。攻められても守れる。自分のスタイルを貫き通した。相手に柔道をさせなかった。隙なく強い。両方を兼ね備えている。彼自身の能力だろうが、それを裏付ける考え抜いた量と質の高い練習がある」 あえて課題を持ち出せば、自分の組み手で持てなかった際に時間がかかったことだったが、「前を持とうが、脇を持とうが、どんな状態でも自分のスタイルにはめこんだ高い技術、力強さを見せた」と、井上監督は絶賛した。