<8億円問題>渡辺喜美氏は何法に抵触する可能性がある? /早稲田塾講師 坂東太郎のよくわかる時事用語
みんなの党の渡辺喜美代表が化粧品販売会社「DHC」吉田嘉明会長から8億円を借り入れていた問題で7日、迷惑をかけたとして代表辞任を表明しました。8億円について、渡辺氏は3月の会見で、あくまで「個人的に借りた」のであって選挙資金でも政治資金でもないと釈明。使い道は選挙はもちろん、政治資金でも買えない「もろもろ」で「熊手など」と説明しました。えらく高い熊手ですね。
猪瀬氏は公選法違反で略式起訴に
こうした説明は2013年末、医療法人「徳洲会」の徳田虎雄前理事長から5000万円を「個人で借りた」として追求され、都知事の座を追われた猪瀬直樹氏とソックリです。その後、東京地検特捜部が公職選挙法(公選法)違反(収支報告書の虚偽記入)の罪で略式起訴し、猪瀬氏は起訴内容を認めて東京簡易裁判所は罰金50万円の略式命令を出しました。公選法の規定により猪瀬氏は5年間、被選挙権(公職へ立候補する)も停止されます。 あくまで「個人で借りた」として公選法違反を突っぱねたら特捜部も「この野郎」と正式裁判の起訴(裁判にかける)に踏み切り、猪瀬氏もそれは避けたかったのでしょう。特捜部にしても知事を辞任して社会的制裁を受けていて肝心の法律違反を認めた一般人を、こういっては何ですが「たかが」公選法違反で正式裁判にする気がなかったと推測されます。 では、当初の猪瀬氏と今の渡辺氏が「個人で借りた」と言い張る理由、言い換えると公選法や政治資金規正法に触れる行いではないと弁明する理由は何でしょうか。法律ごとにみていきます。
■「個人で借りた」の場合
(1)資産公開法違反 国会議員の場合は借り入れの不記載は資産公開法違反の可能性が出ます。ただし罰則なし。都知事の場合も都の資産公開条例に違反するも罰則はやはりありません。猪瀬氏、渡辺氏ともに借り入れそのものは認めたので、せめてこの線で収めたいと勘ぐられても仕方ありません。 渡辺氏自身の発言によると吉田氏からの借金は2010年に3億円、12年に5億円の計8億円。うち5億5000万円が返済されていないそうです。資産等報告書によると渡辺氏個人の借入金は2億5000万円で数字が合わないのは確実です。 (2)所得税法違反 二度目の5億円は返済期限や担保(借金のカタ)が設定されておらず、借用書もないとのこと。借金は返す返されるの裏づけがないと国税当局から「贈与」とみられて、申告していないと所得税法違反に問われる可能性があります。猪瀬氏の場合は「借用書」を示したものの、算用数字を用いるなど通常の書式からほど遠い内容でした。借金の契約は口頭でもOK。ただ猪瀬氏は自ら「借用書」ありの借金を選んだわけだし、渡辺氏も1回目の3億円はそうだったのだから、なかったり書式がずさんというのは不自然です。 贈与とみなされたら約半額は納税しなければなりません。税法の趣旨として不労所得には厳しいからです。無申告の場合だと最悪懲役5年。刑が確定したら被選挙権をいったん失います。 ただそこまで当局が踏み切るかというとたぶんないでしょう。以下に挙げる違反を渡辺氏がことごとく否定し、かつ要職などに止まり続けて当局が「不遜だ」と判断したら「脱税」で立件するかもしれません。自民党を牛耳っていた金丸信氏が5億円のヤミ献金問題で騒がれた際も東京地検特捜部は脱税容疑で逮捕しています。