ニューヨーク の都市再開発に見る、価値ある商業エリアの生み出しかた。ロックフェラーセンターはどう変わったのか
ロックフェラーセンターの改修
その近くには、総面積22エーカー(約8万9000平方メートル)のロックフェラーセンターは、パンデミックの直前に着手した、数百万ドルを費やした改修工事の投資を回収しようとしている。このエリアは、パブリックアートやアールデコ様式の建築のおかげで長年にわたり観光スポットとなっていたが、「さまざまな理由から、ロックフェラーセンターはニューヨーカーにとってあまり人気がなかった」とロックフェラーセンターの責任者であるイービー・ケリー氏は米モダンリテールに説明した。 ロックフェラーセンターは、美味しい食事を楽しんだり、ユニークな店舗を訪れたり、まさにニューヨーク市の真髄を体験したい人々が必ず訪れるべき場所になることをめざしていると、ケリー氏は語る。こうした施設がなければで、多くのオフィスワーカーや国内外からの観光客を呼び込んだり、「成長し、5番街への進出を求めているブランドを誘致する」ことは困難だろうと同氏は懸念した。 こうして、ロックフェラーセンターの全面的な再構築が行われ、ラジオシティミュージックホールの屋上には新たに公園が設けられ、下層コンコースはデザインが一新された。これらのプロジェクトはそれぞれ2021年と2022年に完了し、ロックフェラーセンターは現在、「小売業者からの関心の高まりについて非常に満足している」とケリー氏は話す。 今ではこのエリアには、ジュピター(Jupiter)やレロック(Le Rock)をはじめとするニューヨーク市でもっとも人気のレストランや、アロヨガ(Alo Yoga)、トッドスナイダー(Todd Snyder)、書店のマクナリージャクソン(McNally Jackson)など話題の企業が出店している。ケリー氏によると、ロックフェラーセンターの長年のターゲットだったスキムズ(Skims)と、コークシクル(Corkcicle)は、いずれも2023年にこの場所にポップアップストアをオープンすることとなった。溶接ブレスレットで知られるジュエリーショップの、キャットバード(Catbird)も同じく2023年にロックフェラーセンターに出店した。 ラフトレード(Rough Trade)は米国での売上の大半をオンラインが占める独立系レコード店だが、2021年にニューヨーク市で唯一の店舗を、ウィリアムズバーグからロックフェラーセンターに移転した。ラフトレードの共同経営者であるスティーブン・ゴッドフロワ氏は米モダンリテールに対し、「残念ながらウィリアムズバーグは、出店を決めた2009年当時に我々が期待していたような、小売店街へと発展しなかった。今日に至るまで、この地域は夜や週末向けのままで、マンハッタンのような人通りもなく、公共交通機関の利便性も欠けている」と語った。 ラフトレードはパンデミック以前からマンハッタンへの移転を検討していたが、ロックフェラーセンターの再開発計画を知り、この決断に踏み切った。「ミッドタウンへの移転により、あまりに長いあいだカウンターカルチャーの旗を欠いていたこの地域に、我々が再び旗を立てるということだ。ラフトレードのようなレコード店に対する人々の期待を上回るためにロックフェラーセンターに出店すること以上に、インディーで、反抗的で、破壊的なことがあるだろうか」とゴッドフロワ氏は言う。現在の新店舗は非常に人気があり、中心地に位置しているため、「従来よりもはるかに多くのレコードを、多くの人々に販売している」と同氏は話す。 ヒルハウスホーム(Hill House Home)は2016年に創設されたデジタル志向のライフスタイルブランドで、2022年にロックフェラーセンターに出店した。ロックフェラーセンターは「夢の場所」だったと、創設者でCEOを務めるネル・ダイアモンド氏は米モダンリテールに語った。「子どもの頃、両親と一緒にロンドンからロックフェラーセンターに訪れた思い出がある」と同氏は付け加えている。同社は「ナップドレス(Nap Dress)」で知られており、ナンタケットやバームビーチにも店舗を構えている。昨年11月と12月には、ホリデーをテーマにしたさまざまなイベントをロックフェラーセンターの店舗で開催した。現在、「客足は驚くほど多い」とダイアモンド氏は言う。 一方、ファッションブランドのクール(Kule)は、出店先を決める際にミッドタウンは検討対象としていなかったと、同社プレジデントのジム・カーシュナー氏は米モダンリテールに語った。しかし、ロックフェラーセンターのオーナーであるティシュマン・スパイヤー氏と面会したあと、同社は考えを改めたという。「(ロックフェラーセンターに)どのような変化が起こっているのかを的確に説明し、我々に対して非常に柔軟に対応してくれた。また、ほかの多くの開発者にはできないような、小規模ブランドの考え方を理解してくれた。この機会を逃したくないと考えた」とカーシュナー氏は話す。クールは現在、この店舗以外にアトランタとコブルヒルのブルックリン地区の計2カ所に店舗を保有している。 クールは2021年にロックフェラーセンターに出店したが、この店舗における前年比売上は「非常に好調だ」という。「店舗とオンラインの両方で買い物をする顧客の平均注文価格は40%も高くなっている」とカーシュナー氏は続ける。クールはまた、ロックフェラーセンターのスケートリンク専用の靴下を作るなど、コミュニティにも溶け込んでいる。「靴下の売上は青天井に増えた。人々はスケートのときや、そのあとに履くための面白い靴下をいつも探していたため、当社の方向性とよく調和した」。 ミッドタウンは主に一時的な滞在エリア、すなわちニューヨーカーが昼間働いて、夜は帰ってしまう場所というイメージが強かったが、それが変化しつつある。この地域はよりトレンディで実験的なエリアになり、小売業者は長期的に確保できるスペースを奪い合っている。 「人々は、自分たちの場所に投資し、ここに定着して根を下ろすという提案に期待しているのだと思う」とロックフェラーセンターのケリー氏は語った。 [原文:‘Foot traffic is incredible’: Midtown Manhattan is once again a retail hot spot] Julia Waldow(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:都築成果) Image via Studs
編集部