ニューヨーク の都市再開発に見る、価値ある商業エリアの生み出しかた。ロックフェラーセンターはどう変わったのか
ミッドタウンの進化
ラジオシティミュージックホール(Radio City Music Hall)やグランドセントラルステーション(Grand Central Station)があるミッドタウンは、パンデミックのあいだは人通りの減少に苦しんだ。このエリアには主要なオフィスビルが並んでいたことから、2020年から2021年に多くの人々が在宅勤務となった時期に休止状態となった。「5番街はパンデミック期に低迷し、その後も真っ先に復興したわけではない」とクッシュマン・アンド・ウェイクフィールド(Cushman & Wakefield)の小売サービス部門シニアディレクターを務めるテイラー・レイノルズ氏は米モダンリテールに語った。 実際、小売業者はアッパーイーストサイドへの移転をはじめた。2022年後半には、エルメス(Hermés)やザディグ・エ・ボルテール(Zadig & Voltaire)などの小売業者がマディソン・アベニューの東57丁目から86丁目までに沿って29店舗をオープンした。しかし、競争が激化するにつれ、小売業者はミッドタウン、特にロックフェラーセンター周辺エリアに戻りはじめた。 「世界がパンデミックから回復してきた現在、ニューヨーク市の最高地区と広く考えられている場所に、各ブランドからの注目が集まってきている」とクッシュマン・アンド・ウェイクフィールドの小売部門エグゼクティブディレクターを務めるジェイスン・グリーンストーン氏は米モダンリテールに語った。 クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドによると、5番街は小売業者にとって運営コストがもっとも高い場所だ。それでも、このエリアは規模拡大をめざす企業の関心を集めている。シャネル(Chanel)は2月、5番街のクラウンビルディング(Crown Building)に、米国初の時計やファインジュエリーの専門店をオープンした。LVMHは昨年4月に、5番街のランドマーク(The Landmark)として知られるティファニー(Tiffany & Co)の店舗を刷新した。バーバリー(Burberry)は昨年夏に5番街に新店舗をオープンした。 スワロフスキーは2022年前半、5番街でのリース契約を結んだが、実際に店舗をオープンさせたのは2023年後半のことだった。ニューヨークの旗艦店舗はスワロフスキーにとって「長年の夢」だったと、同社北米担当ゼネラルマネージャーを務めるコリア・キオフスキー氏は米モダンリテールにメールで語った。「さまざまなエリアを慎重に検討した結果、当社は5番街を選んだ。ここはラグジュアリーの中心地だからだ」と同氏は話す。店舗開設から100日以上経過した今、「商業的見通しは極めて有望だ」という。 現在、5番街のスペース争奪戦は激化しており、ラグジュアリー小売業者はこのエリアでより永続的な存在感を示すため、地主から土地を買収しはじめた。プラダ(Prada)は12月に、旗艦ブティックのある5番街724番地とその隣のビルを、8億3500万ドル(約1227億円)で買収する契約を結んだ。1月にはグッチ(Gucci)の親会社であるケリング(Kering)が、9億6300万ドル(約1416億円)を投じ、移転予定のドルチェ&ガッバーナ(Dolce & Gabbana)の本店がある5番街の715番地から717番地の小売部分を買い取った。ブルームバーグ(Bloomberg)によると、LVMHは5番街745番地の買収を交渉中だという。 5番街に進出した小売業者は、新しい店舗デザインや照明器具、商品整理の方法をテストしている。たとえば、シチズンの新しい時計店の2階には、博物館と歴代の時計のアーカイブがある。またスワロフスキーの新店舗には、八角形の大階段とクリスタルのドアノブがある。 5番街に新店舗をオープンするには、「極めて高いレベルの投資」が必要だと、グリーンストーン氏は米モダンリテールに語った。「ブランドがこの店舗を真剣に求め、そこに労力を注いでいるという興味深いことが起こっている。これらのブランドがビルを長期的に借りるのではなく買い取っているということは、この街路や土地の価値への強い確信の表れだ」。