「推し」の健康、考えていますか? 振付演出家の竹中夏海が語るアイドルの労働問題
エンタメとケアを自由に行き来したい
―竹中さんが、小説家の柚木麻子さんとDIVAのゆっきゅんさんとされているPodcast番組「Y2K新書」のなかで「私はエンタメとケアを自由に行き来できるようになりたいんだよね」とおっしゃっていて、素敵な言葉だなと思って印象に残っています。その言葉の意図をあらためてお聞きさせてください。 竹中:数年間、アイドルの健康や働き方について取り組んでみて思ったのは、やっぱり、楽しいことをやってる人たちに見えないとだめだなということでした――私も楽しいことをやっていないともたないという面もあるんですけど――それこそY2Kの時代の『あいのり』みたいな人になりたいっていうのがずっとつねに心のなかにあって。 私は学生時代、ずっと『あいのり』に夢中で。『あいのり』のいいところって、世界を旅するじゃないですか。人の恋愛や友情、青春を追っているだけではなくて、巡る国の歴史も学べる番組だったんですよ。当時からほかにも意義のある社会的な番組はあったと思うんですが、中高生の私はNHKも見ていなかったし……。なにも考えずに『あいのり』を見ている学生の私にも届く、ということがすごく大切だなっていうふうに思って。サブリミナル勉強というか、勉強アハ体験というか(笑) 知らないあいだに刷り込まれているっていう状態が、すごくいい。本来届かない人たちに、エンタメの力を使って届けるっていうことが、すごく大切だなっと思っています。そういうエンタメをつくりたいですね。 そのエンタメの、ステージの上の人たち、カメラの前の人たちがボロボロになってしまっては意味がないので、「エンタメ」か「ケア」のどちらか片方ではなくて、都度スイッチして、行き来できるっていうふうになりたいと思っていますね。
テキスト・撮影 by 今川彩香 / インタビュー by 生田綾、南麻理江