トヨタの自己否定と変革への本気度 「世界に通じるクルマ」へ
「世界一」をめぐり、独フォルクスワーゲン(VW)や米ゼネラル・モーターズ(GM)と熾烈な販売台数競争を繰り広げるトヨタ。今年VWに抜かれるまでは3年連続で世界一の座を守ってきました。世界一の自動車カンパニーとして、カイゼンを積み重ね、無駄を廃し、盤石な体制を築きつつあるように見えるトヨタですが、そんな中、ある挑戦的な取り組みを発表しました。モータージャーナリストの池田直渡氏は、トヨタが本気で「いいクルマ」をつくるために変革を目指しているように見える、と分析します。 【写真】ハイブリッド車の草分け「プリウス」の何がスゴイのか?
「トヨタ生産方式」という呪縛
あなたはトヨタのクルマが好きだろうか? そしてトヨタのクルマが世界一売れていることをどう思っているだろうか? 上の二つの問いに対してネガティブな答えをする人の気持ちはよく分かる。トヨタはカタログを見れば燃費もパワーも素晴らしいし、ファミリーカーのインテリアに凝らされた小物入れやシートアレンジに対する細やかな気遣いはすごいと思うが、クルマ好きが萌える何がしかの要素が足りない。そう思っているのだと思う。 振り返ってみれば、トヨタが世界一になった理由は「トヨタ生産方式」という世界の製造業に衝撃を与えた新しい生産方式によるものだ。その理念は「売れた分だけ作る」という極めてシンプルな目標にたどり着くが、それは裏返せば「売れる分以上に作らない」だし「売れない不良品を極限まで減らす」でもある。理念そのものはシンプルでも、やろうと思うと膨大な取り組みが必要で、簡単にできることではない。 1970年代以降、このシンプルな目標を達成するために、トヨタは知力と汗を振り絞って、ムダを徹底的に排除してきた。そうすることこそ社会的正義だと信じてきたはずだし、資源を浪費しないという意味でもそれは確かに間違っていない。ここまではトヨタの経営について書かれた多くの書籍、それもトヨタ出身者が書いた書籍にさえ書いてあることだから間違ってはいまい。 ここからはどこの本にも書かれていない筆者の個人的見方だ。トヨタ生産方式の中には「多数派の顧客が理解できない作り込みはしない」という考え方もあるのではないだろうか? 例えば「G's」シリーズは、最小限の追加加工でシャシー剛性をぐっと高めたりしている。その勘所の掴み方は見事だ。つまりこれを見る限りトヨタはクルマをもっと良くするノウハウを持ちながら、通常モデルにはそれを投入していない。 多数派の顧客に評価されないことをするよりも、誰でも分かる売価を下げることを正義としているのではないかと思うのだ。一言で言えばオーバークオリティの抑制である。それ以上を求めるユーザーには、G'sという限定仕様を出して対処する。それがトヨタの答えだったのではないか?