「練習、何時から行きます?」初戦で苦しんだ後、甲斐優斗が声をかけて始まった自主練習 経験と武器が結集し、インカレ初制覇
この1本は、「俺に持って来い」ということだよな。 専修大学セッターの井出脩斗(4年、聖隷クリストファー)はエース甲斐優斗(3年、日南振徳)の意志を即座に読み取った。 【写真】決勝でも要所で強打を決めた日本代表の甲斐優斗 勝てば初優勝が決まる日本体育大学との決勝戦。セットカウント2-0と専修大が先行して迎えた第3セットの中盤だった。逆転優勝のために攻めるだけ、とばかりに放たれる日体大の強烈なサーブにブレークを喫し、13-18と5点をリードされた場面だ。 このセットでもサービスエースを奪うなど、今大会を通じて好調を維持している日体大・山元快太(3年、仙台商業)のサーブから始まったラリー。専修大のブロックに当ててコートの後方へ飛ばそうとした打球を甲斐の右手がとらえた。 高く、決して弱くはない打球を右手だけでコントロールした。ただつなぐだけなら他の選手でもできるかもしれないが、おそらく大学レベルで余裕を持って追いつき、セッターにチャンスボールとして返せるのは甲斐しかいない。しかも、井出に言わせればそのトスは「(自分に)持って来い、と気迫を感じた」1本だった。 攻撃準備に入ったバックセンターの甲斐へ、井出が高いトスを上げ、甲斐の武器である高さを生かした一打を放った。ブロックをものともせずに打ち付けたバックアタックで14点目をもぎ取ると、甲斐は満面の笑みと大きなガッツポーズで喜びを表現した。 「あそこは自分に持ってきてほしかったし、あのプレーでまた少し、勢いが戻った。次のセットにつながるプレーになったのでよかったです」
セッター井出脩斗「1本目は優斗に上げる」
第3セットは20-25で日体大に譲ったが、第4セットは序盤に主将の竹内慶多(4年、啓新)が強打だけでなく、コート後方の空いたスペースを狙った頭脳プレーで連続得点。18-14とリードを広げた終盤には、竹内のサーブから甲斐が続けて決め、21-14。怒濤(どとう)の連続得点で突き放した専修大が、最後はブロック得点で25-17。セットカウント3-1で勝利し、全日本インカレ初制覇を成し遂げた。 試合直後のコートインタビューで「感無量です」と感慨に浸った竹内が言った。 「自分たちの代、このチームが始まった時から、絶対に優勝できると信じていました。本当に優勝することができて、まだ実感が湧かないんですけど、でも春や秋、しんどかったところからここまで持ってくることができて、本当によかったです」 繰り返すようだが、専修大には日本代表として今夏のパリオリンピックにも出場した甲斐がいる。放つスパイクなどコートでの存在感は群を抜いていて、つないで必死に粘ったラリーの最後に甲斐が決めると、会場からは歓声と感嘆の声が上がり、決められた側も「これはお手上げ」とばかりに苦笑いを浮かべるシーンを何度も見た。 確かに、甲斐はすごかった。見ている者だけでなく、そう証言するのは他ならぬチームメートたちで、トスを上げた井出も手放しで称賛する。 「僕の中で、試合の入り、1本目は優斗に上げると決めていたんです。当然相手もわかっているだろうし、勝負どころもやっぱり優斗に託す。それでも決めてくれる。僕のトスがずっと悪くても優斗は決めてくれる。こんなにすごい選手と一緒にプレーすることなんて二度とないだろうなって、試合をしながらずっと思っていました」