「呪術廻戦」に載った仙台名菓・喜久福を全国区に 製造元の4代目が仕掛けた積極コラボ
SNSやコラボも社員主導で
お茶の井ヶ田のメイン顧客は、創業以来一貫して40代以上の女性が中心でした。しかし近年は、呪術廻戦とのコラボやSNS発信の強化で、10~30代も増えつつあります。 X(旧Twitter)の公式アカウントは、2018年ごろまではほとんど稼働していませんでした。しかし、広報担当の社員が自主的に運用を始めて、プレゼント企画やセール情報を定期的に投稿し、フォロワー数は数十から1万以上に急増しました。 コロナ禍でセール情報を積極的に発信したり、呪術廻戦の関連情報も伝えたりした結果、フォロワー数は約7万人(2024年10月時点)に達しています。 商品やキャンペーンだけでなく、他社の企業アカウントとの交流や「中の人」の日常的なつぶやきなど、幅広い発信を行っています。仙台で誕生した人気キャラ「きっこうちゃん」とのコラボも、社員の提案から、2023年に始まりました。 井ヶ田さんは、SNSの運用方法は社員に一任しています。「初めは不安もありましたが、基本的に大きな投資を伴わない限り、社員の発案には反対しないようにしています。仮にうまくいかなくても、『自分たちで何とかしよう』という気持ちがモチベーションとなり、粘り強さにつながりますから」 井ヶ田さんの父も、抹茶ソフトクリームの取り扱いを始めるなど、新事業を次々と立ち上げてきました。老舗企業ながら挑戦へのハードルが低い企業風土を根づかせています。 井ヶ田さんも、積極的なコラボやメディア出演など挑戦を続けています。「雪見だいふく」や「チロルチョコ」とのコラボも話題になりました。 「自社単独よりコラボの方が幅広い層にアプローチできます。大手企業とのコラボではほとんどの場合、相手から声をかけてもらっています。メディアに出る機会が多いので、『おもしろいことをしている会社』と目に留まるのかもしれません」
大型施設でつくりだしたにぎわい
お茶の井ヶ田などが2014年に開業した農業観光施設「秋保ヴィレッジ アグリエの森」は、喜久水庵とは異なる展開を見せています。仙台市郊外の秋保温泉に位置し、地元農家と共同で運営。敷地面積は1万1500坪、総工費10億円にのぼります。 農産物や加工品、自社商品など約500種類を販売するほか、フードコートや散策用のガーデンなども兼ね備え、観光客だけでなく地元住民も引き付けています。2023年度の来場者数は約150万人になりました。 プロジェクトは「観光物産館を開設したい」という父の思いを発端に、井ヶ田さん主導で進めました。 建設予定地は当初、市街化調整区域で開発できない土地だったといいます。井ヶ田さんは、農家の後継ぎ不足解消や、耕作放棄地の活用といった意義を行政に訴え、10年以上かけて開発許可を得ました。 農産物の販売は利益が薄いものの、定期的な買い物需要を喚起し、地元住民を引きつけることで地域の農地を守っています。来場者の車の7割が県内ナンバーだそうです。 2027年には宮城県白石市の「道の駅しろいし」(仮称)内に秋保ヴィレッジ同様、農産物を含む物販施設の開業も予定しています。
工場建設も関東進出も動き出す
お茶の井ヶ田は現在、新たな取り組みを複数走らせています。 その一つが、2025年の稼働を目指す新工場の建設です。完成すれば、現在の2倍にあたる1日8万個の喜久福を製造できる体制が整う見込みです。 知名度を一層高めるため、関東への出店計画も進行中で、将来的には海外展開も視野に入れます。 「関東の常設店が軌道に乗れば、売り上げや収益面で大きなインパクトがあります。地元では、秋保ヴィレッジで10年間培った運営ノウハウを生かし、『道の駅しろいし』を盛り上げて地域活性化のお手伝いをしたいです」
ライター・シナリオライター 岩崎尚美