「呪術廻戦」に載った仙台名菓・喜久福を全国区に 製造元の4代目が仕掛けた積極コラボ
震災翌年、突然の社長就任
順調に事業を拡大していた2011年、東日本大震災が発生しました。多賀城本店が津波で被災し、営業停止を余儀なくされますが、復興応援で多くの注文も入りました。 2012年、井ヶ田さんは父・今野克二さん(井ヶ田製茶社長)から「来期からお前が社長な」と告げられ、同年9月、30歳でお茶の井ヶ田社長に就任しました。「本当に突然でした。父は若いうちに挑戦させてみようと考えたのかもしれません」
コンビニスイーツ台頭で経営改革
復興支援で売り上げは一時的に増えましたが、コンビニスイーツの台頭による競争激化で、2013年の売り上げは前年より10%減となります。 井ヶ田さんが取り組んだのが常温商品の開発です。元々は喜久福をはじめ冷凍商品をメインに扱っていました。できたてのおいしさを持続させるためでしたが、冷凍商品は冷凍設備が場所を取るため、売り場面積に限界が生じます。持ち運びにかかる時間も短くなるため、購買層が地元住民に偏る面がありました。 そこで「仙台ひとくちずんだ餅」、「香ばし玄どら」などの常温商品を次々に開発し、観光客向けのラインアップを広げました。常温商品の作り方や保存方法は冷凍食品とは勝手が違いましたが、井ヶ田さんは、これまでに培った取引先などとの人脈を生かしながら、徐々にハードルを乗り越え、拡充したといいます。 売り上げが振るわなかった関東の店舗の閉鎖や、人員シフトの最適化にも取り組みました。 それまで各店ごとにシフト調整していましたが、近隣店をグループ化してエリアマネジャーを配置。人員や在庫を効率的にコントロールできる体制を構築し、エリア内で人員不足の店があれば、余裕のある店から補充するなど、柔軟な対応を可能にしました。 これらの改革で、人繰りや在庫の無駄を削減し、運営効率が向上しました。コロナ禍前後でも売り上げは変わらないまま、10%少ない人員で運営を可能にしました。
「呪術廻戦」で売り上げが急伸
お茶の井ヶ田にとって、2020年10月放送開始の人気アニメ「呪術廻戦」とのコラボは大きな転機となりました。きっかけは、原作漫画の1コマに喜久福が登場したことです。作者の芥見下々さんは岩手県出身で、仙台に住んでいたこともあり、自宅で食べていた経験から作中に登場させたそうです。 井ヶ田さんは、すぐに編集部にお礼状と商品を送りました。その後、アニメ化の際、正式に「喜久福を作品内に登場させたい」という打診があり、快諾しました。 その好機を逃さず、井ヶ田さんは攻めに出ます。喜久福に呪術廻戦のキャラクター・五条悟がプリントされた包み紙を巻き、数種類のキーホルダーを付けました。開けるまでどれが入っているかわからないシークレット仕様にして、購買意欲を高めました。 アニメでは五条悟が「喜久福がいかにおいしいか」を語りながら戦闘を繰り広げるシーンが描かれ、原作以上に露出が増加しました。その後公開された映画のパンフレットに喜久福の広告を出します。キャストのインタビューやグッズ、フィギュアの広告が並ぶなかで異色の存在感を出していたそうです。 全国の量販店から注文が相次ぎ、「第二次喜久福ブーム」が到来。業績は大きく伸び、仙台駅構内での売り上げは倍以上になります。また、大手量販店を中心に北海道から沖縄まで取引先が増加しました。その結果、グループ全体の売り上げは事業承継前と比べて約10億円も増えました。