「ヘビースモーカーの妻たちの肺がんリスク」論文が世界でスルーされた悲しい理由
しかし、2018年になって195ヵ国の調査をまとめたメタ解析から酒に安全量などないという結果が『ランセット』誌に発表され、そのデータを引っ込めてしまった。 ところがよくしたもので、同じ年に同じ『ランセット』誌に正反対の結果が発表された。イギリスを中心に約60万人の飲酒者を追跡したメタ解析によると、1週間に200gのアルコール飲酒者の方が、飲まない人よりも心臓病のリスクが低いというのだ(図3-3)。 全死亡で見ても150g/週が安全量(閾値)である。毎日、日本酒1合、ビールロング缶1本程度(それぞれ175g/週)であれば、(イギリス人の場合は)酒は安全な上、循環器疾患を抑えるというのである。 どちらの論文も科学的にはきちんとした内容である。われわれはどちらを信じたらよいのだろうか。まずは2人の賢人に聞いてみよう。 月下独酌一杯一杯復一杯はるけき李白相期さんかな 佐佐木幸綱 酔いはさめつつ月下の大路帰りゆく京極あたり定家に遭わず 永田和宏 (2首とも、永田和宏『人生後半に読みたい秀歌10』『一冊の本』朝日新聞出版、2023年1月) ● ウオッカを飲み過ぎるロシア人男性は 世界の中でもひときわ短命 ロシア人の酒の飲み方は、「破滅飲み」といってもよいかもしれない。ウオッカを飲み過ぎた結果、殺人、自殺、事故が増え、平均寿命は短くなる。
ロシア人男性の寿命は、1950年には50.7歳、2000年には58.6歳という、世界の中でもひときわ目立つ短命であった。2020年時点でも67.3歳しかない。しかも、ソ連邦崩壊、ルーブル暴落のような社会不安のたびに男性の死亡率が悪化する(図3-4)。ウクライナ侵攻でまた男性の死亡率が一段と高くなったのではなかろうか。 ウオッカの飲み過ぎで、自殺、殺人というのは信じられないが、ウオッカにはアルコールだけでは説明できない危険性が潜んでいるに違いない。 1970年代の後半、まだソ連邦のころ、WHOの仕事でモスクワに行ったことがある。アメリカ人と一緒に、ソ連流の接待を受けた。私はある程度酒を飲むとそれ以上飲めなくなるので無事だったが、ウオッカの杯を重ねていたアメリカ人は腰が抜けて、私がホテルまで抱えるようにして送っていったことを思い出した。 ちなみに、ネット情報によるとプーチン大統領はほとんどウオッカを飲まないという。ウクライナで戦争犯罪を繰り返しているのはウオッカのせいではなく、本人の責任である。