オリックスMLB282発”大物”ジョーンズの”トリセツ”…さりげない敬意を示せる男が最初に気に入った日本語は「愛してる」
ただ、初めて会ったときから、自分の価値観を持っているーーそんな印象を持った。迎合せず、自由。納得できなければそれを指摘する。ルーキーながらそれを貫く意志の強さもあった。傍若無人に振る舞っているように見えて、彼の中では一貫したものがある。 おそらく一番嫌うのが、型にはめられること。郷に入っては郷に従えーーと抑え込もうとすれば、彼の個性を潰す。日本でどれだけ彼流が認められるかだが、オリックスならその心配はないかもしれない。大リーグでいろんな選手を見てきた田口壮野手総合兼打撃コーチがいる。一人理解者がいるだけでも、まるで違うはずである。 もっとも、気持ちよくプレー出来る環境を整えたところで、結果が出るかはまた別の問題。衰えは否定できない。 ただそれは、2015年ぐらいまでの彼と比較して、ということであり、ここ数年はほとんど変わらない。打球の平均初速は、メジャーではもう下から数えたほうが早い。しかし2015年以降は86~88マイル前後で推移。極端な落ち込みはない。ハードヒットの確率もリーグ下位だったが、これもここ数年は30~33%程度で変化がない。 バレルの率も打球の平均角度もほぼ一緒。打率が2割6分台になったことはこれまでもある。本塁打は半分になったが、速い球を空振りする率は昔より低くなった。三振が増えたわけでもない。一塁到達タイムもここ数年は4.4から4.5秒程度。スプリントスピード(ft/s)はここ2年、4、5年前より速い。 守備のリアクションタイムも遅くなったが、マイク・トラウト(エンゼルス)のほうが遅い。トラウトはそれを抜群のルート取りで補っているが、ジョーンズのルート取りも平均以上。守備範囲は狭くなっているが、ライトに移ってそこは必ずしも求められなくなった。
そもそも何をもって衰えたと判断するかだが、全体的なことでいえば昨年、初めて選手の総合力を評価するWAR(代替選手に比べてどれだけ勝ち星の上積みに貢献したかを示す数値)がマイナス(-0.4)になった。一つ一つの数字に大きな変化はないが、仮に各項目で5%ずつ数字が下がれば、全体ではそれなりのダウンになる。それがWARにも反映されているーーということならやはり、昨季のマイナスはそれ相応の数字か。 しかし、彼の背中を見てーーオリックスもここを評価したかもしれないがーー若い選手が何かを感じることがあるかもしれない。 2015年8月12日、マリナーズの岩隈久志(現・巨人)がセーフコ・フィールド(現・Tモバイル・パーク)で行われたオリオールズ戦で、ノーヒットノーランを達成した。 試合後、岩隈はクラブハウスの外で待っていた家族とその喜びを分かち合っていたが、その脇を移動のバスへ向かうオリオールズの選手らが、無言で通り過ぎていった。ところが、ジョーンズは歩く速度を緩めると、岩隈に向かってこう言ったのである。 “Congratulations”(おめでとう) 後ろに続いた若い選手らも、同様に一言二言、岩隈に声をかけて通り過ぎていった。 素直じゃないところはある。ただ、オリックスで2020年の開幕を迎えるジョーンズは、そんな相手への敬意をさりげなく口にできる選手、いや、人間である。 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)