独りって、そりゃ寂しいですよ――「何をやらせても、人よりできなかった」パティシエ・鎧塚俊彦の実像
鎧塚俊彦なんてどうでもいいけど
目標は、スイーツ界における「プリーツプリーズ」だという。 「イッセイミヤケさんのプリーツプリーズは、デザインと機能性を兼ね備えていて、一度着たらやめられない。僕も大好きですが、もはやあの商品は、デザイナーのイッセイさんから離れて存在しているものです。トシ・ヨロイヅカも、そうでありたい。鎧塚俊彦なんてどうでもいいけど、これはおいしいよね、そういうものを作り上げなければ。これはまだ僕の目が黒いうち、動けるうちに作って、会社に残していきたい」 時に激しい向かい風の中、スイーツを作りながら日本の未来を拓こうと奔走する。何がそれほどまでに鎧塚を突き動かすのか。 「やっぱり、夢ですよね。僕には、7つの夢があります。人々に喜んでいただけるおいしいお菓子を作り続けること。スタッフとその家族を幸せにすること。ほかにも、地域活性化と第一次産業の隆盛、アジア経済共同体の構築など、人から見たら、実現できるの?と思われるようなこともあると思います。でも、自分の夢、目標がないと、働かされている感のようなものが出てくるんじゃないのかな。苦しくても、夢に向かって走り続けているとき、人は一番輝くと思うんですよ」
一人暮らしでは、たまに公開するインスタライブが楽しみ。はじめたのは、コロナ禍で時間ができたときだった。フォロワーも増え、実際に売り上げにも直結したという。 「人生って、必ず起伏があります。いくら頑張ったって、落ちるときはある。でも、その落ちている時に何をするのかを考えるのが、すごく大事だと思いますね。インスタライブでは、フォロワーさんたちのコメントで、元気になります。だいたい30分で、シャンパンだと1本ちょっと空けてしまいますね」 独りって、そりゃ寂しいですよ。そう苦笑して、鎧塚は立ち上がった。 まだまだ大きな波に乗る。そんな決意が背中ににじんでいた。 ___ 鎧塚俊彦(よろいづか・としひこ) 1965年、京都府宇治市生まれ。「Toshi Yoroizuka」オーナーシェフ、株式会社サンセリーテ代表取締役。辻製菓専門学校を卒業後、守口プリンスホテルに入社。神戸ベイシェラトンホテル&タワーズのセクションシェフから、副製菓長に。30歳で渡欧し、スイス・シャフハウゼン、オーストリア・ウイーン、フランス・パリなどで修業。2000年、ベルギーの当時三つ星レストラン「Breneau」のシェフパティシエに。帰国後、会社を設立し、パティスリーを開業。現在は都内に3店舗、小田原市に「一夜城ヨロイヅカファーム」を運営。小田原市ふるさと大使、宇治市観光大使。エンジン01文化戦略会議「動物愛護委員会」委員長。全日本食学会、および一般社団法人食文化ルネサンスの理事も務める。 この記事は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」、「#昭和98年」の一つです。仮に昭和が続いていれば、今年で昭和98年。令和になり5年が経ちますが、文化や価値観など現在にも「昭和」「平成」の面影は残っているのではないでしょうか。3つの元号を通して見える違いや残していきたい伝統を振り返り、「今」に活かしたい教訓や、楽しめる情報を発信します。