「何でもやってあげる必要はない」認知症を公表した蛭子能収のマネージャーがあえて“手を貸さない”理由 #病とともに
◆介護福祉ライター 宮下公美子氏の「専門家の目線」
――身近な人が「認知症かも」と気付くポイントとして、どんなケースがあるのでしょうか? 宮下公美子: 認知症の初期症状として、最も一般的なのは“もの忘れ”です。何度も同じ話を繰り返す、あるいは約束をしていたのにすっかり忘れていたりとか。そのようなことが起きて、「ちょっとおかしいな」と気が付くことが多いようです。その違和感には、実は本人も気付いているケースが多くて、自分でも薄々分かっているのですが、分かっているだけに言われたくないんです。周りから「おかしいよ」と言われてしまう怖さがあって、自身で認めたくないという気持ちになってしまう傾向にあります。 ――症状を進行させないために、サポートする方はどのようなことに気を付ければいいのでしょうか? 宮下公美子: 大切なのは「責めない・訂正しない・怒らない」ということです。ありのままを受け入れて、「まぁ、そういうこともあるよね」と受け止めていただくのがいいと思います。認知症がある方というのは、「名前や出来事の記憶は衰えてしまうが、感情の記憶は残る」と言われています。そのため、すごく嫌なことを言われると、その嫌だった具体的な言葉は覚えていなくても“嫌なことを言われた”という記憶だけが残ってしまいます。それで関係性が悪くなることもあるので注意が必要です。 それと、蛭子さんのように“仕事を続ける”ということは、とてもいいことだと思います。それまで通りの生活を続けたり、人との交流や刺激が多い生活をすることがとても大事です。例えば、習い事をしているのであれば続けていただくとか。だんだん失敗が増えていくと、本人も消極的になりがちですが、そこを「いや、行こうよ」と誘ったり、外に行くのが難しくなれば、「お友達呼ぼうよ」など、人と触れ合うことを続けてほしいです。 ――森永さんは「自分の心に余裕がないと他人をケアできない」と語っていました。サポートする方が自分を守るためにはどうすればいいのでしょうか? 宮下公美子: 100点満点の対応を目指さないということです。もちろん、ベストな対応ができればいいのですが、人間なのでベストな対応ばかりはできません。70点ぐらいを目指せればいいのではないかと思います。本人を傷付けるようなことを言ってしまって、気に病むご家族のお話を聞いたりしますが、言ってしまったものは仕方がありません。でも、傷付けたと感じた時は、必ず「ごめんね」と謝るようにしてください。感情の記憶の部分で「嫌なことを言われた、でも後で謝ってくれた」ということも記憶として残るはずです。 あとは、自身が愚痴を言える場やストレスの解消の方法をたくさん持っておくことが、すごく大事です。自分一人で全部背負おうと思うのではなくて、ヘルパーや親族など、いろんな方の力を借りながら、みんなで支えることを考えていくといいと思います。森永さんもおっしゃっていたように、自分がまず健康・健全でいないと人の支援はできないので、まず自分を守ることを考えてほしいと思います。 認知症の一番のリスク要因は「加齢」です。85歳を過ぎると2~3人に1人が認知症になると言われています(※)。誰でもなり得る病気なので、なることを恐れるのではなく、親や自分がなったとしても慌てないよう、備えておけるといいですね。たとえば、「高齢者や介護のことは“地域包括支援センター”に相談すればいい」など、最低限の情報を持っておくと、少し心の余裕ができるのではないでしょうか。 ---- 森永真志 千葉県出身。2004年にFATHER’S CORPORATION入社。同年より蛭子能収さんのマネージャーを務める。蛭子さんの認知症公表後、イベント、講演会などに一緒に登壇し、認知症になった後も働けるようサポートしている。 宮下公美子 介護福祉ライター。できるだけ現場に近づき、現場目線からの情報発信をすることがモットー。取材や講演、研修講師としての活動をしつつ、社会福祉士として認知症がある高齢者の成年後見人、公認心理師・臨床心理士としてクリニックの心理士、また、自治体の介護保険運営協議会委員も務める。 「#病とともに」はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。人生100年時代となり、病気とともに人生を歩んでいくことが、より身近になりつつあります。また、これまで知られていなかったつらさへの理解が広がるなど、病を巡る環境や価値観は日々変化しています。体験談や解説などを発信することで、前向きに日々を過ごしていくためのヒントを、ユーザーとともに考えます。なお、本記事は個人の感想・体験に基づいた内容となっています。 ※出典 https://www.tmghig.jp/research/topics/201703-3382/