「何でもやってあげる必要はない」認知症を公表した蛭子能収のマネージャーがあえて“手を貸さない”理由 #病とともに
介護する人の心に余裕がないと他人のケアはできない
――お医者さんからは、認知症ケアに関してどんな注意点がありましたか。 森永真志: お医者さんからは「とにかく嫌いなことはやらせず、無理強いするのはダメ」と言われていました。でも、何かに手こずっている蛭子さんを見るとつい、「いつもはできてるじゃないですか!」と熱くなってしまうこともありました。僕の亡くなった父も認知症を患っていたんですが、その時も家族だからこそイライラが態度に出てしまうこともあったんです。そうすると言われた本人は「俺はもう何もできないんだ…」と、どんどん塞ぎ込んでしまうんですよね。 一度、蛭子さんを車で送っている時に、後部座席に座る蛭子さんから「何かごめんね、送ってもらって」と言われたことがありました。僕は蛭子さん以外のタレントの担当もしているので、その時はもしかしたら忙しさが顔や態度に出ていたのかもしれません。蛭子さんはアーティストなので、実は僕の表情や、ため息一つからでも感情を感じ取れる繊細な人でもあるんです。なので、「そういう態度は蛭子さんには絶対出したらダメだよな」と反省することが多々あります。 ――認知症の蛭子さんをサポートしていく上で大切にしていることを教えてください。 森永真志: 介護する人の心に余裕がないとダメだということです。やっぱり余裕がないと他人のケアはできないと思います。人間だからどうしても態度に出てしまうのは仕方がないんですけど、父の介護の時には気持ち的に余裕がなく態度に出してしまったことを後悔しています。なので、僕は極力、蛭子さんにはそういう面は見せないようにしています。 介護をしている側には、「何かあったらどうしよう」という思いがあるから、全部やってあげちゃうんですけど、意外と手を貸さなくてもできることはある。お医者さんからも「全部やってあげると、できることがどんどん狭められて認知症の進行も早くなる」と言われています。なので、何でもかんでもやってあげる必要はないという気持ちで介護と向き合えば、認知症のある人のためにもなるし、自分の心の余裕にも繋がると信じて、そこはやってもらうようにしていますね。 あとは、一人じゃなくてみんなでサポートすること。父の介護の時も一人では絶対に無理でした。ある時、蛭子さんが「みんながこんなに優しくしてくれて…」と、珍しく涙を流したことがありました。本人的には上手く言葉にできないだけで、いろいろと感じていることはあるんだと思います。でも、それは決して蛭子さんが認知症だから優しくするのではなくて、普段から謙虚で分け隔てなく周りに接してくれる蛭子さんだからこそ、みんなが協力してくれるんだと僕は思います。「それは蛭子さんの人徳ですよ」と言うと、「へへへッ」と笑っていましたね。