「かわいそう」だから…「がんで死んだウサギ」で知る主人の間違った愛情 「ニンジンが好物」「かよわい」の誤解が招く悲劇
飼っている動物が病気になったら、動物病院に連れていきますよね。動物病院には外科、内科、眼科など、さまざまな専門領域の獣医師がいますが、獣医病理医という獣医師がいることを知っていますか? この記事では、獣医病理医の中村進一氏がこれまでさまざまな動物の病気や死と向き合ってきた中で、印象的だったエピソードをご紹介します。 みなさんは、ウサギという生き物にどのようなイメージをお持ちでしょうか? 【写真で見る】どんどん伸びていくウサギの切歯(前歯のこと) 「ニンジンが大好物」「かよわい」「さみしくなると死んじゃう」――。一般の人がウサギに対して抱いている印象は、おおむねこんなところではないでしょうか。ただ、広く一般に認知されているこれらのイメージは、ウサギの実態とはちょっとちがうかもしれません。
■歯が伸び続け頰や舌に刺さる まず、ウサギとニンジンの関係からです。 ウサギにとってニンジンは甘い食べ物なので、与えれば喜んで食べます。しかし、野生のウサギが食べているものの大半は繊維質の多い草です。最近はペットのウサギ専用のペレット餌などもありますが、基本的には本来の食事である硬い牧草を中心に与えて飼育します。 ウサギの歯は常生歯(じょうせいし)と呼ばれ、私たちの髪の毛のように生きている間ずっと伸び続けます。
例えば、切歯(前歯のこと) だと、何もしないと1年で10~12cmも伸びます。臼歯(奥歯のこと)も伸びます。通常、これらの歯は硬いものを咀嚼することですり減り、適切な長さを保っています。 しかし、飼い主さんが、ニンジンや野菜、果物といった比較的柔らかいものばかり与えていると、ウサギの歯が必要以上に伸びてしまうのですね。これを「不正咬合(ふせいこうごう)」といって、重症になると伸びすぎた歯が頰や舌に刺さることもあります。
それだけで死ぬことはまれですが、不正咬合になったウサギはいかにも痛そうな様子をしています。頬や舌が傷ついている様子をみると、実際に大変な痛みがあるのでしょう。 ペットのウサギには偏食になる個体もいて、慣れていないと牧草を食べてくれませんから、飼い始めの初期から牧草を与えておくことが大事です。 「様子がおかしい」と動物病院に持ち込まれてくるウサギには、この不正咬合の子が多いです。 切歯はともかく、臼歯は飼い主さんではなかなかチェックできませんから、病状を進行させてしまいがちです。症状がなくても歯に異常がみられることも多いので、動物病院で定期的にチェックしてもらうのがいいでしょう。