北朝鮮がウクライナ戦争に派兵へ…その目的は「カネ」「実戦経験」「トランプ」
ロシアから北朝鮮へ「巨額のカネ」が動く
今回の派兵で、ロシアから北朝鮮に、一体いくらのカネが渡るのか? 仮に兵士一人あたり1日100ドルが支給され、1万2000人が1年間派遣されたとすると、以下の試算となる。 100ドル×12000人×365日=4億3800万ドル(約670億円) まさに武器輸出に続いて、巨額のカネがロシアから北朝鮮側に流れることになる。北朝鮮部隊がもしも「戦果」を得たら、報奨金なども支給されるだろうから、北朝鮮側が手にする総額は、もしかしたら年間1000億円を超えるかもしれない。 だが、この巨額のカネは、兵士たちにあまねく支給されるわけではない。おそらくその大半が、金正恩委員長に「ピンハネ」されるだろう。推定体重140kg超の独裁者の「焼け太り」だ。 そして独裁者は、ロシアから得た多額の外貨を、国民の福祉などには使わず、さらなる軍備増強に充てるに違いない。その意味では、隣国の日本としても、北朝鮮兵の「参戦」は、他人事では済まされない。 加えて、これも勝手な推定だが、ロシアと北朝鮮の間では、ウクライナ戦争停戦後のロシア占領地域のインフラ整備を、朝鮮人民軍が行う「契約」も、すでに交わしているのではないか。北朝鮮で朝鮮人民軍というのは、普段は軍人というより、建設労働者の役割を担っているからだ。 朝鮮人民軍は、北朝鮮最大の建設会社と言っても過言ではない。北朝鮮の主要な道路やビルは、彼らが中心になって建設している。
「参戦」のさらなる目的
さて、「カネ」に続く派兵の二つ目の目的が、「実戦経験」だ。1953年に休戦協定を結んだ朝鮮戦争は、いまだ「休戦中」であり、「戦時」は続いているのだ。 とは言っても、朝鮮人民軍はすでに70年以上も実戦を経験していない。今回の派兵は、最新の実戦経験を積むまたとない機会となる。このことは、38度線を挟んで対峙している韓国にとって、特に大きな脅威となるだろう。 そして、三つ目の目的として北朝鮮が考えているのが、「トランプ当選後」の米朝交渉のことだろう。 世界には「待ちトラ」(トランプを待っている)の国と、「待ちハリ」(ハリスを待っている)国があると言われるが、北朝鮮は明らかに前者だ。アメリカにハリス政権が誕生すれば、再び4年間、「戦略的忍耐」という名のもとに無視され続けるからだ。 ドナルド・トランプ政権時代には、大統領が3度も米朝首脳会談を行ってくれた。それが、「CVID」(完全で検証可能かつ不可逆的な非核化)なるものを突きつけてきたために、交渉は決裂した。 だがいまや、北朝鮮は「核保有国」であり、各種先端ミサイルも配備し、おまけにウクライナ戦争にも派兵している――という主張を盾に、2期目のトランプ政権と「大きな態度で」交渉に臨もうとしているのだ。そのため、「トランプ前」に、交渉のハードルをできるだけ上げておきたいのである。 ともあれ、北朝鮮のウクライナ戦争への派兵が、東アジアに新たな地政学を生み出すことは間違いない。この情報が入るや、日本の秋葉剛男国家安全保障局長と、韓国の申源湜(シン・ウォンシク)国家安保室長(前国防長官)が、ワシントンにすっ飛んで行き、アメリカのジェイク・サリバン安保担当大統領補佐官と3ヵ国高官協議を行ったのは、そうした証左だ。 この3者会談が、日本の総選挙の二日前(25日)のことだ。そして、総選挙で自民党が大敗した後も、北朝鮮を巡って何が起こるか分からない。 総選挙後に大揺れの日本は、しっかりと対処できるのだろうか? (連載第753回)