北朝鮮がウクライナ戦争に派兵へ…その目的は「カネ」「実戦経験」「トランプ」
北朝鮮にとってウクライナ侵攻は「神風」
そんな北朝鮮に2022年以降、「神風」が吹いた。それは、同年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻が、長期化したことだ。NATO(北大西洋条約機構)の全面的な支援を受けたウクライナの抵抗が激しく、ロシアは正規軍の他に、「ワグネル」などの傭兵部隊まで投入した。 そのワグネルが、昨年6月に「プリゴジンの乱」を起こし、ロシアは窮してしまった。そこでプーチン政権が頼ったのが、ユーラシア大陸の東の端にある北朝鮮だったというわけだ。 昨年9月13日、プーチン大統領は、ロシア極東アムール州のボストチヌイ宇宙基地で、金正恩委員長を丁重に迎えた。大統領になりたての2000年7月19日に一度、訪朝したが、「あまりの貧国ぶりに驚愕して、以後は見向きもしなくなった」(ロシアの関係者) 北朝鮮に冷淡だったプーチン大統領が、ウクライナ戦争の思わぬ長期化で、態度を一変させたのである。「遅刻の常習犯」のはずが、炎天下の中で金正恩委員長を待ち続け、金委員長を乗せた車が到着すると、満面の笑みを浮かべて、40秒間も握手した手を離さなかった。そして1億円近くする「アウルス」(ロシア大統領専用車)に金委員長を同乗させ、金委員長が気に入ると、2台もプレゼントしてしまった。 この時の映像を見ると、常に作り笑いを浮かべながら、ペコペコヘラヘラするプーチン大統領に驚かされる。まさにKGBのスパイ教育が身についた、「目的遂行のためなら自己を殺せる」恐るべきリーダーである。とても習近平主席にはマネできない。
金正恩は人民軍を「売り渡した」
実際、プーチン大統領はこの時、見事に自己の目的を果たした。前出のロシアの関係者は、こう明かした。 「金委員長は、軍事偵察衛星などいくつかの最新技術の提供を条件に、北朝鮮が『ロシアの武器工場』となることに同意した。そもそも、北朝鮮の兵器システムは旧ソ連型なので、ロシアが専門家を派遣すれば、早期の量産体制が可能だった。ロシア側は北朝鮮に気を遣い、いわゆる『友好価格』(権威国同士の友好的な安値)ではなく、国際流通価格で武器を買い取った」 この武器取引は、明らかに前述の国連制裁決議「第2379号」違反である。だが、国連安保理の常任理事国であるロシアが、堂々と「制裁破り」を行うほど、もはや国連の権威は地に堕ちている。 ともあれこの時の契約は、北朝鮮に「ロシア特需」を生み出した。経済制裁、コロナ禍、水害という「三重苦」を吹き飛ばす莫大な外貨をもたらしたのである。 そして、今年6月のプーチン大統領の平壌訪問で、「協力の第2弾」として、兵士派遣を最終的に決定したというわけだった。 これについて、韓国の金龍顕(キム・ヨンヒョン)国防長官が10月24日、国会の国防委員会総合国政監査で、興味深い証言をした。 「ウクライナ戦争に動員された北朝鮮軍の性格については、事実上の派兵ではなく、傭兵(ようへい)と表現するのが、より適切であると評価している。通常、派兵をすれば、(自国の)軍隊の指揮体系を維持し、(自国の)軍服を着て、標識や国旗を掲げて堂々と活動するものだ。しかしながら、彼らは自国の軍服ではなくロシアの軍服で偽装しており、ロシア軍の統制下にいて、何の作戦権限もなく、命令通りに動いている。 言葉では派兵と言うが、実態は弾受けの傭兵にすぎない。一言で言えば、金正恩が自身の(朝鮮)人民軍を、違法な侵略戦争の弾受けとして売り渡したのだ。結局は、自身の独裁政権を強化し維持するためのものだ。そして(北朝鮮の)住民に知られぬよう、水面下で行った状態なのだ」 まことにもっともな指摘である。「ロシアの傭兵」と言えば、有名なのは故エフゲニー・プリゴジン氏が率いていた傭兵部隊「ワグネル」だ。ワグネルは、ロシアの獄中にいた囚人などを、数万人規模で組織した部隊だった。そしてプリゴジン氏は、動員目的を「カネのため」と言ってはばからなかった。