北朝鮮がウクライナ戦争に派兵へ…その目的は「カネ」「実戦経験」「トランプ」
北朝鮮の「参戦」決定の経緯
10月24日にはウクライナ側が、「23日に、ロシア東部で訓練を受けた北朝鮮軍の最初の部隊を、クルスク州で確認した」と発表した。クルスク州は、8月6日以降、ウクライナが「越境攻撃」を行い、一部を占領している国境沿いのロシア西部の州である。北朝鮮兵は、弾薬や冬服、ひと月50mのトイレットペーパー、300gの石鹸などを支給されているという。 今回の北朝鮮兵の「参戦」を最終決定したのは、おそらく6月19日と思われる。この日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が訪朝。金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長と首脳会談を行い、「ロ朝包括的戦略パートナーシップ協定」を結んだ。 金正恩委員長は首脳会談後の会見で、「両国は同盟関係になった」と自信たっぷりに述べた。この協定は全23条からなり、その核心部分とも言える第3条と第4条は、以下の通りである。 第3条 双方は、公表された地域と国際的な平和、安全を保障するため、相互に協力する。双方のいずれか一方に対する武力侵略行為が強行される直接的な脅威が醸成された場合、双方はいずれか一方の要求によって、互いの立場を調節し、醸成された脅威を除去する協調を相互に提供するための可能な実践的措置を合理的な目的で、相互協商の通路を遅滞なく稼働させる。 第4条 双方のいずれか一方が個別的な国家もしくは国家群から武力侵攻を受け、戦争状態に入った場合、他方は国連憲章第51条と、朝鮮民主主義人民共和国とロシア連邦の法に準じて、遅滞なく自国が保有しているあらゆる手段で、軍事的及びその他の援助を提供する。 このように、今回の北朝鮮兵の参戦を予告するかのような内容が、条文に明記されているのだ。この協定は、公開されているものの他に、「秘密協定」の存在が指摘されているので、さらに子細な記述があるのかもしれない。
金正恩の思惑とは…
実は、大国の戦争に同盟国が参戦するというのは、珍しいことではない。例えば、前世紀後半のベトナム戦争に、アメリカの要請を受けた韓国は、8年5ヵ月間で延べ32万5517人も派遣している。その最大の目的は、「アメリカの信頼を勝ち得る」ことにあった。 それでは今回、ユーラシア大陸の反対側にまで朝鮮人民軍を派遣する金正恩委員長の思惑は何なのか? 私は、金委員長のココロを読み解くキーワードは3つあると見ている。それは、「カネ」「実戦経験」「トランプ」だ。 中でも最大の目的がカネ、すなわち外貨獲得だ。このところの北朝鮮は、外貨不足が深刻化しているからだ。 2017年12月22日に国連安保理が決議した9回目の対北朝鮮経済制裁「第2379号」は、ほとんど北朝鮮と貿易してはならないという強烈なものだった。特に、北朝鮮が年間約450万バレル輸入していた石油精製品を、50万バレルにまで制限したことで、北朝鮮は深刻なエネルギー危機に直面した。この制裁を、当初はロシアも中国も支持し、順守したのだ。 続いて、2020年から新型コロナウイルスの危機が、北朝鮮を襲ったことだ。北朝鮮は約3年にわたって鎖国し、国内生産も滞ったことから、コロナウイルスの感染死、餓死、凍死などが大量に発生した。 これらに加えて、地球温暖化の影響もあって、秋の収穫を間近に控えた時節に、毎年到来する台風や豪雨の水害に苦しんだ。北朝鮮には森林を切り崩した「ハゲ山」が多いので、洪水被害の規模は、日本の比ではない。 その間、金正恩政権は「2500万人民に尽くす」と公言しながら、核やミサイル開発など軍備増強に専念した。それによってますます「凍土の共和国」と化していった。