わずかな年金で老後の生活費賄えず、70歳過ぎても働く日本人が増加
檜野さんは、「今なんでも上がっているからね。毎月毎月買い物に行くと高くなっている」と語った。
日本の公的年金制度を巡っては、加入者が減る一方で受給者が増えており、懸念はくすぶり続けている。厚生労働省によると、過去20年間で、公的年金の被保険者数は約300万人減少したのに対し、受給者数は40%余り増加した。
日本では、他の先進諸国の国民が引退を決意する年齢をはるかに超えて働く人が増えている。OECDによると、65-69歳と70-74歳の日本人男性の労働参加率が上がっており、70-74歳については23年に43.3%と、20年前の29.8%から上昇した。米国は22.4%、OECD平均では17.3%だった。
高齢になっても働き続けることのプラス面としては、生きがいや仕事を通じたコミュニティーへの帰属意識が挙げられる。20年版高齢社会白書によると、高齢労働者の半数近くが仕事をする主な理由として金銭面以外の要因を挙げた。「自身の能力を生かせる」や「働くのは体に良い」といった回答もあった。
高齢者向けの人材派遣会社「高齢社」の村関不三夫社長は、「高齢者は働いている派遣先やお客さまから感謝され、社会に対して役立つことをしていると感じられる」と語った。同社に登録しているスタッフの平均年齢は72.1歳だ。
もっとも、ニッセイ基礎研究所の前田氏は、「厳しい人は結構多い」とし、高齢者の暮らしを支援するためにやるべきことがもっとあると言う。65歳以上の高齢者を対象にした内閣府の調査によれば、経済的な暮らし向きについて回答者の8割余りが家計にゆとりがないと回答した。
日本では定年期を迎える女性の状況は特に厳しい。東京都立大学の阿部彩教授の推計では、高齢の独身女性の相対的貧困率は44%に上る。
昭和女子大学の八代尚宏特命教授によると、 年金制度を維持するために、政府は国民に現役生活の延長を正式に求める必要があるかもしれない。国民は「毎年の給付を減らされたら生活に困る」とし、最も合理的な方法は支給開始年齢を引き上げることだと述べた。