推し活仲間が「社会的孤立死」 安否確認を阻む個人情報保護の“壁”
終活支援で自分の身を守る
個人情報保護法の下では「第三者への情報提供はほぼ不可能」と行政関係者は口をそろえる。下島さんのようなケースは今後も増えていくとみられるが、「友人・知人」は何もできないのだろうか。 『孤独死をめぐる法律と実務』などの著書がある武内優宏弁護士(東京)は、第三者に情報を提供しないという現行制度の運用に理解を示しつつも、次のように語る。 「誰かに自分の死を知らせたい、遺品を渡したいなどの希望があれば、事前の準備が必要ですし、それに備えた仕組みもある。例えば、神奈川県横須賀市の『わたしの終活登録』制度では、死を伝えたい相手などを登録しておくと、死後、登録先に個人情報を開示することもできる。ほかにも『エンディングノート』の活用や、必要なことを書いたメモを冷蔵庫に貼っておくなどの方法はあるんです」
個人情報保護を「壁」にするのは本末転倒
今の制度や運用への疑問を指摘する声もある。 埼玉県入間市の個人情報審議会で委員を務めた経験を持つジャーナリストの阿部芳郎さんは、春日井市のケースについて、「制度の穴に落ちた孤立死といえるかもしれない」と話した。 「個人情報保護法には解釈が微妙な部分もありますが、自治体や取り扱い団体は法を守ることに必要以上に神経を使っているように見受けられます。少しでもはみ出したらダメという認識です。でも、その姿勢がコミュニティー形成を邪魔している部分もあると思います」 佛教大学社会福祉学部の新井康友教授(老人福祉論)は「個人情報保護が壁になって、救える命を救えていないのではないか」と指摘した。
「行政から地域の見守りをしてほしいと言われた民生委員が、どこに誰がいるのか分からないので行政に聞くと、『教えられない』と言われることがあるそうです。これでは地域支援はできません。地域社会のつながりが希薄になっている今だからこそ、命を守るためには個人情報が必要になるケースもある。柔軟な対応を検討すべきでしょう」 孤独死・孤立死は高齢者だけの問題ではない。2022年に日本少額短期保険協会の孤独死対策委員会が、賃貸住宅での死亡が死後に分かった一人暮らしの人を調査したところ、死亡時の平均年齢は約62歳だった。「社会的孤立死」の下島さんも50代だ。 「亡くなった人の権利もあるので本人が伝えたい人には伝えないといけないし、救える命を守ることはもっと大事だと思います。個人情報保護が邪魔して助けられないのなら本末転倒です」(新井教授) 木野龍逸(きの・りゅういち)フリーランスライター。自動車にまつわる環境、エネルギー問題に加え、福島第一原発の事故後は事故の影響を追い続ける。著作に『検証 福島原発事故・記者会見1~3』(岩波書店)ほか。 本記事はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」、「#昭和98年」の一つです。仮に昭和が続いていれば、今年で昭和98年。令和になり5年が経ちますが、文化や価値観など現在にも「昭和」「平成」の面影は残っているのではないでしょうか。3つの元号を通して見える違いや残していきたい伝統を振り返り、「今」に活かしたい教訓や、楽しめる情報を発信します。