推し活仲間が「社会的孤立死」 安否確認を阻む個人情報保護の“壁”
6万柱の遺骨を自治体が保管
身寄りのない人が死亡した場合、基本的には死亡地の市町村長が埋火葬を行うが、遺骨や遺留金の引き取り手がないことも多い。総務省の最新データによると、2021年10月時点で、引き取り手がないため自治体が保管している“無縁遺骨”は全国で約6万柱、遺留金は約21億5000万円に達している。 国勢調査によれば、2000年に17.4%だった日本の高齢化率(65歳以上の割合)は、2020年には28.6%となり、10ポイント以上も増えた。世帯全体に占める一人暮らし世帯の割合も27.6%から38.0%へと10ポイント以上も増加し、それぞれ過去最高を記録した。 そして、高齢化率が初めて20%を超えた2005年に、個人情報保護法が全面施行されている。高齢化が進んだこの20年余りは、個人情報保護が広く社会に根付いた期間と重なり合う。この年月は、「孤独死」「孤立死」が社会問題化した期間でもある。 身寄りのない人が死亡するケースの中には、下島さんのように「親族はいないが知人、友人はいる」という場合も多いだろう。親族以外への情報提供を可能とすることで、「孤独死」「孤立死」を回避できないのだろうか。 結論から言えば、現行制度では「友人など第三者への情報提供は困難」というのが、関連機関や専門家の認識だ。 政府の個人情報保護委員会によると、個人情報保護法は死者の情報については保護の対象にしていない。一方で、死者の個人情報であってもそれが生存する遺族などと関係していれば、「個人情報になる」という。個人情報保護に関する自治体の運用指針はこの見解をベースにしており、友人や知人は開示先になっていない。
千葉県の自治体で関連実務を担当する職員はこう言った。 「DV(ドメスティック・バイオレンス)でシェルターに避難している人もいるので、個人情報の提供には、ただでさえ神経を使っている。特に一人暮らしの人は家庭環境が複雑で、相続の問題を抱えていることもある。権利関係に関わる生死の情報を第三者には提供できません」 URの姿勢も同様だ。春日井市の団地を管轄するUR中部支社・住宅経営部の担当者は言う。 「友人・知人を名乗る第三者に借り主や室内の状況について情報提供することは一切ありません。遺留品の権利は相続人にあります。第三者からの問い合わせに回答すると、相続人の財産権を侵害する恐れがある。リスクは回避せざるを得ません」 下島さんの隣人も取材に次のように語っていた。 「救急車で彼が運ばれた後、同級生だという男が何人か訪ねてきたんだよ。免許証とか名刺とか見せられたけど、誰だか分からない。ちょっと怖かったよね。今の世の中、知らない人に個人情報みたいなのは言えないでしょ?」