推し活仲間が「社会的孤立死」 安否確認を阻む個人情報保護の“壁”
一人暮らしの50代男性が毎日数十件も発信していたSNSの書き込み。それが今年1月初旬に突然、途絶えた。消息を確認しようと、友人が自宅を訪ねたところ、隣人の話から救急搬送されて戻っていないことまでは判明した。しかし、住宅の管理会社や自治体などに問い合わせても、個人情報保護の壁に阻まれ、それ以上の情報が得られない。「友人の生死すら分からない。いったい、どうすれば?」――。友人の行方を追うなかで見えてきた、個人情報保護と孤立死の関係とは。(文・写真:木野龍逸/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
「推し活」仲間が消息不明に
愛知県春日井市に住む下島雅一さん(仮名)は、ツイッター(現「X」)などSNSのヘビーユーザーだった。話題は主に地下アイドル。「推し活」に熱心で、ライブに行ってはSNSで報告をする。投稿は10年ほど前からで、年間1万件以上に達していた。 その投稿が2023年1月初旬、パタリと途絶えた。「明日も仕事、やることいっぱい。がんばろ」という書き込み以降、更新がない。1日に20回、30回の投稿も珍しくなかった下島さん。途絶える何日か前の投稿には、体調が悪いという書き込みもあった。 推し活の現場で知り合い、普段はSNSでつながっている友人たちは不安を覚えた。その1人で、名古屋市に住む田中進さん(仮名)は、下島さんと同年代だ。 「SNSのDMで連絡しても返信はないし、携帯電話はつながらないし。おかしいな、って。いつもアイドルの話で盛り上がっていたのに……。東京の仲間も『変だよね』と」
50代の下島さんは独身で、持病があったらしい。SNSでは、両親はすでに他界し、遠い親戚しかいないとつぶやいたこともある。派遣の仕事を続け、SNSや推し活を通じた友人は全国にいたようだ。そんな下島さんは推し活のライブ会場で、「ツイッターが止まったら、自宅で倒れている可能性が高いので見に来てほしい」と半ば冗談交じりで田中さんに言っていたという。 とはいえ、その時点では彼の本名も住所も知らない。田中さんは語る。 「推し活の現場では、お互いの素性を知らないのが普通です。それでSNS仲間に彼の異変を伝え、ツテをたどりにたどって、ようやく彼を知る人を見つけました。あ、本当は下島さんというんだ、って初めて分かったんです。詳しい住所も」