好感度高いのに…急失速のハリス、なぜトランプに勝てない?決定的な「物語」の差とは
9月から「怒涛の追い上げ」を見せたハリス
ハリスはトランプと対照的だ。20歳ほど若く、地方検事出身(トランプは6件の重大な刑事訴訟の被告)、正大統領候補として初の有色女性、中道バイデン・極右トランプに対峙(たいじ)する左派、人工妊娠中絶権など女性の権利擁護の活動家。またトランプと違って、軽易即妙なやり取りが下手でぎこちなく、感情的絆をもつファンもいない、「史上最も不人気な副大統領」でもあった。 7月の共和党大会直前にトランプ暗殺未遂事件が起きると、拳を振り上げ、強さと健在ぶりを誇示する彼の姿に、共感と支持が急増した。トランプ政権復活の「確トラ」論は、もはや既定路線かに見えた。一方、民主支持層も新候補登場で活気づき、9月には熱意や支持率でハリスとトランプは互角に並ぶ。ハリスは、主流メディアや若者SNS、テイラー・スウィフトなど著名インフルエンサーの支援(写真)も手伝って、民主寄りのダブルヘイターは、迷いを吹っ切ったかに見えた。 注2:ハリス=ウォルズ陣営は、テイラー・スウィフトにインスパイアされた友情ブレスレットを、9月10日のハリス対トランプ候補討論会の直後、テイラーがハリスを支持表明したことに合わせて販売した。「ハリス・ウォルズ24」と書かれたビーズで飾られた民主党ブルーのブレスレット2個セットは、スウィフトが副大統領を支持してから1時間以内に売り出され、9月25日時点で100万ドル以上を集めた。 しかし10月になると、ハリスは失速する。
なぜハリスは「決め手」に欠けるのか?
10月になり、ハリスは失速した。たしかに世論調査では、好感度や指導者資質など人物面で、ハリス評価は上がった。しかし知名度や人気だけでは、投票動機として弱い。むしろ人間性や哲学、政策などで「この人しかいない」という差別化、共感や絆を生む「自分にとっての大事さ(自分事)」がなければ投票しない。支持のヨコ拡がりだけでなく、タテの深掘りが決め手なのだ。 ハリスにためらう第1の理由は、民主支持のダブルヘイターが抱える、バイデン政権の経済・物価インフレ対策や移民対策への不満がどのように解消されるか、違いや方法が明確でないからだ。またハリスは、中道・無党派層をめぐるトランプとの争奪戦を意識してか、環境政策や製造業支援、移民対策について、バイデン政権を批判したり擁護したり、立場が頻繁に変わる。 NYT/Siena調査(9/29-10/9実施)では、マクロな経済運営手腕ではトランプ優位が続いている。また「個人的に、政策が助けになったか」でも、トランプ政権への肯定的評価は42%、バイデン政権は否定的評価が42%と対極的だ。 一方ハリスは、バイデンに欠けた「あなたのような庶民の問題を理解」し、個人生活を助けるだろうという期待値で、トランプと互角(44%対42%)に並んだ。期待は高いものの、庶民にとっての「問題を解決できるか」では、評価が低い。トランプ政権に匹敵する経済実績もなく、バイデンが批判された膨大な政府支出財源をどうするかも分からない。北東部激戦州の白人労働者や黒人・ラテン系、高学歴若年層など、民主支持のダブルヘイターが、ハリスの経済・産業政策や政策実現能力に確信をもてず、結局トランプに票を奪われているのもうなずける。 政治不信は史上最悪水準で、上記NYT調査では、政治経済システムの「大変化」を望む人が6割、「破壊」も1割に上る。以前の調査では、「変化の担い手」はトランプが圧倒的優位だったが、ハリスも互角に並んだ。有権者は、トランプのプロジェクト2025のような極右方向への変化は望まないが、ハリスの言う「トランプでもバイデンでもない、新世代のリーダーシップ」もよく分からない。この差別化は重要だが、ハリスの説明はない。オバマは、米国の「変化」を象徴し、新世代のカリスマとして、今も支持層を組織化動員するブランド力がある。ハリスにそれを培う時間は、もうない。