好感度高いのに…急失速のハリス、なぜトランプに勝てない?決定的な「物語」の差とは
大統領選まで後1週間、トランプとハリスの大接戦が続いている。世論調査では両者の差は誤差範囲だ。しかし過去2回の大統領選で、事前世論調査はトランプ支持を過少評価した。隠れトランプ支持や、低学歴層の投票率読み違いなどが原因という。ハリスは3カ月という短期決戦で、トランプ陣営に1歩及ばない面がいろいろある。実際、「どちらが当選するかの賭け率」(Real Clear Politics)はトランプ優勢になってきた(図)。そこには決定的な「物語」の差があった。支持率だけでは分からない、最終盤の水面下の攻防について、政治マーケティングを専門とする埼玉大学名誉教授 政治学博士 平林 紀子氏が解説する。 【詳細な図や写真】トランプ対バイデンの第1回候補討論会(6月27日 CNN)バイデンは討論会で、心身の衰えを露呈し、後日候補辞退に追い込まれた(出典:NBC News)
大接戦の行方を左右する「説得可能」者たち
2020年選挙同様、トランプ対バイデンの再対決と思われていた今回選挙。予備選では両候補が圧勝したが、有権者の2割は、トランプもバイデンも選ばない「ダブルヘイター」だった。党派二分化が進む米国では、多くの有権者が投票先を迷わない。両陣営が狙うターゲットは、この2割の人々、特にペンシルバニアなど7つの激戦州(注1)で、選挙最終盤に「投票先未定」(5%、200万人)、あるいは「投票に行くか分からない」(11%、500万人)というわずかな「説得可能」者たちだ。彼らはどちらの候補を選ぶのか。それが大接戦の行方を左右する。 注1:7つの激戦州とは、伝統的に民主党支持が強い北東部製造業工業地帯の3州(ブルーウォール州)すなわちペンシルバニア、ウィスコンシン、ミシガンと、新興産業や先端技術開発、研究機関が集中し、黒人・ラテン系の中間所得層や白人若年層の流入による人口構成の変化で党派傾向が変わりつつある、東西にまたがる南部4州(サンベルト州)すなわちジョージア、ノースカロライナ、ネバダ、アリゾナである。 なお、激戦区としてネブラスカ第2選挙区を含めることも多い。ネブラスカは「勝者全取り型」の全米で例外的に、得票率によって州選挙人を比例配分する。僅差の選挙では、この僅かな選挙人数の差が勝敗を分ける可能性がある。 有権者分析の専門家は、ダブルヘイターには2種類あるという。1つは、トランプの強引な政治手法や非常識な言動を嫌い、彼への投票を今回は止めた共和党支持者と無党派、2つ目は、トランプは嫌だが、バイデンの高齢や経済失政が不満で、彼にも行けない民主支持者と無党派だ。 このダブルヘイターが大きく動いたのは、6月末のトランプ対バイデンの候補者討論会で衰えを隠せなかったバイデン(写真)が、候補辞退に追い込まれたときだった。8月民主党大会で副大統領ハリスが代わって候補指名されれば、選挙の力学が大きく変わるからである。