独占インタビュー パリオリンピックでまさかの予選敗退 本多灯に何が起きていたのか
【「心と体が乖離してしまった」】 ケガや体調不良ではなかった、メンタルの問題だったと、本多は強調した。 大会開幕の10日ほど前、事前合宿地のフランスのアミアンでメディアの取材に応じた本多は、当時の状態について「65%」などと話し、残り時間で本番に向け調子を上げていきたいと前向きな姿勢を見せていた。 「正直、調子いいときが100%なら、当時の出来は10%くらいでした。周囲に期待されているのもわかっていましたし、なんとなく65%と言ってしまったというか。体の状態が悪かったわけではないです。でも競泳って、体と気持ちが一緒にならないと結果が出ないもの。トレーニングしているので体の状態は少しずつよくなっているのに、心がどうしてもついていかず、心と体が乖離してしまっていたということです。僕自身もその時は『なんとかしなきゃ』と気持ちばかりがはやって、自分の状態についてよく理解できていなかったのですが......。 もし大きな目標に向かうなら、まずは自分の気持ちを鮮明にして、そこからトレーニング、必要であれば休養を取らないとダメですよね。振り返ると、パリの僕は自分自身の気持ちが鮮明でなかったことで、本来の泳ぎがまったくできなかったのかなと思っています」 不思議だが、レース中の感覚は、2年前の大学3年の時に自己ベスト(1分52秒70)を出した際に近いものがあった、とも振り返る。 「夢中になって周囲が見えない状況というのは、自己ベストを出した時に近い感覚がありました。もちろん、周囲の選手が自分より前を泳いでいるのは、なんとなくは感じてはいました。でも、必死に泳いだ割に体の疲れは感じなかったし、そうした感覚は調子がいいときに似ている。だから結果が出る、出ないというのは本当に紙一重で、些細なことだったようにも思います」 そして本多は続ける。 「もしかしたら頭脳明晰な選手なら、すぐに(自分の状況に)気づくのかもしれません。でも、僕はそういうタイプではないですから、パリ五輪が終わりようやく気づきました。 五輪前の僕は、正直、金メダルしか見えていませんでしたし、そこに届くまでは、それほど距離があるとは感じていませんでした。ただ、実際にはその差は僕の体では表現できないほど広がっていたというか......。差が大きいということは、そのぶん可能性もあるということです。ただ、そこに行くのは簡単ではないですからね」