[特集/アーセナルは優勝する 03]驚愕のマルチ性+攻撃性能もアップ 冨安健洋はアーセナル優勝のキーマンだ
第16節終了時点でアーセナルはリヴァプールと並ぶ最少失点(15)であり、堅守は今季のアーセナルの明確なストロングポイントだ。ウィリアム・サリバ、ガブリエウ・マガリャンイスの両センターバックの前に、今季加入のデクラン・ライスが陣取るカタチはまさに鉄壁だが、もうひとり堅守に大きく寄与する選手がいる。日本代表DF冨安健洋である。 主にサイドバックとしての出場になるが、右に置いても左に置いても的確なポジショニングと1対1の強さでその守備能力をいかんなく発揮。さらに、課題と思われていた攻撃参加にも光るものがあり、今季はプレミア初ゴールもマークしている。 第14節ウルブズ戦で負傷離脱し状態が心配されるが、それまでの今季の冨安のマルチぶりは明らかにバージョンアップしていた。20季ぶり、悲願のタイトル奪取に向けて、冨安の重要性はますます高まっていくだろう。もしかしたら、彼こそが優勝のキーマンであるかもしれないのだ。
最終ラインはもちろん中盤もこなせる戦術眼と技術
冨安健洋ほどマルチなDFも珍しい。アーセナルでは右SB、左SB、CBと3つのポジションで起用されているが、実質的にはそれ以上といえる。なぜなら、アーセナルのSBは右と左で求められるプレイがかなり違うからだ。 左のファーストチョイスはオレクサンドル・ジンチェンコ。いわゆる「偽SB」だ。攻撃ではボランチの場所に移動して、デクラン・ライスとともにビルドアップを司る。「偽SB」といえば、リヴァプールは右SBのトレント・アレクサンダー・アーノルドを中へ移動させていて、意図としてはおそらくアーセナルと同じだろう。ビルドアップの質を高めるのが狙いだ。 ポジショニングの変化という意味での「偽SB」はいまどき珍しくない。可変による「位置的優位」は、それが相手にも知れ渡ったことで減退している。それでもSBを偽化させているのはジンチェンコ、アレクサンダー・アーノルドという個人に強みがあるからだ。最もボールが経由する場所に、最もパスワークの技術の高い選手を配置することに意味がある。マンチェスター・シティにおけるジョン・ストーンズの「偽CB」も同じである。 冨安はジンチェンコのバックアップとして貴重な人材になっているばかりか、試合によってはジンチェンコを差し置いてスタメン起用されるまでになった。アヤックスから獲得したユリエン・ティンバーもいるが負傷中。ヤクブ・キヴィオルはオーソドックスな左SBでボランチとの兼任は難しく、ジンチェンコ以外にボランチを兼任できるSBは今のところ冨安しか見当たらないのだ。 右SBはオーソドックスな役割になっている。ただし、左がボランチ化するのでCBのサリバ、ガブリエウとともに後方に残って3バックとして機能できなければならない。ボランチとの兼任はないが、CB的な仕事はあるわけだ。ボールが相手陣内へ入ったら、右ウイングのブカヨ・サカをサポートする形で攻撃に出ていく。こちらはベン・ホワイトと冨安がポジションを争っている格好だ。 CBについてはサリバとガブリエウのコンビが鉄板化しているので、冨安がCBでプレイする機会は限られているが、日本代表で証明しているとおり冨安にとっては最も得意なポジションだろう。 求められるプレイがかなり異なる左右のSBをどちらもこなせて、CBの適性もある。実質的には左右のSBとボランチ、3バックの右、CBと5つのポジションでプレイできるわけで、プレミアリーグでも、ここまでマルチなDFはまずいない。試合数の多いアーセナルにとって、これほど心強い存在もないわけだ。