日本を代表するテキスタイルデザイナー、須藤玲子が織りなす布づくり【NUNO須藤玲子の見果てぬ布の旅vol.1】
そのMoMAで1998年から99年にかけて開催された「Structure and Surface: Contemporary Japanese Textiles」は、日本の布づくりの偉大さと特異性を世界に発信した意義ある展覧会だったことに加えて、須藤にとって大きなターニングポイントとなる経験を得た。ショップにやって来て同行を請うたMoMAの担当キュレーターと共に、日本各地の産地、工場、最先端の研究を行う企業、さまざまな場所を訪ねて、リサーチを重ねたのである。その期間は10年に及ぶ。家族だけで経営しているような小規模な工場が脈々と培ってきた技術、大企業が研究開発を重ねて生まれたハイテクな繊維、食品・化学・繊維といった異業種を自由に往き来しながら生まれる日本のテキスタイルを披露した展覧会は、大きな注目を浴びた。「工場や職人と協業し、チームワークでものづくりを進める」ことを信条とした須藤にとっても、産地の特徴や各工場の特徴をより深く理解する機会となり、結果的にNUNOのネットワーク構築にも大きく貢献した。それは須藤にとってだけでなく、産地にとっても財産となっている。世界の名だたるメゾンが、日本の布づくりに着目し、活発な交流が生まれるきっかけとなったのだから。
日本初の「マンダリン オリエンタル」ホテル、「NUNO」クリエーションが日本の顔に
須藤とNUNOにとって、プロジェクトの規模も傾けたエネルギーも桁違いに大きなもののひとつに、「マンダリン オリエンタル 東京」(2005年)がある。エントランス、レセプションからレストラン、ボールルーム、179ある客室まで、空間に使われるすべてのテキスタイルをデザイン。テキスタイルデザイナーとしてこんなに胸躍り栄誉なことはないと同時に、プレッシャーも相応のものだったろうと察する。紆余曲折を経て、テキスタイルはすべて国産となり、ていねいに培ってきた産地との連携がここで遺憾なく発揮された。さらに2015年のホテル全体のリニューアルにも、須藤は産地と一致団結して取り組んだ。