日本を代表するテキスタイルデザイナー、須藤玲子が織りなす布づくり【NUNO須藤玲子の見果てぬ布の旅vol.1】
マンダリン オリエンタル 東京だけでなく、数多くの建築やインテリアデザインのプロジェクトに参加してきた。参加という言葉は正しくなくて、建築家やインテリアデザイナーとの協働という表現がふさわしいだろう。伊東豊雄、坂茂、グエナエル・ニコラといったトップランナーたちとの協働でつくり出すのは、仕上げにちょこんと加えるような、お飾りとしてのテキスタイルではない。布という平面の素材の特性を熟知しているからこそ、空間という立体への対峙の仕方も心得ているし、その空間に呼応し、互いの価値が増幅するものに挑戦している。
もちろん、たくさんの課題や困難にぶつかってきた。産地や職人から信頼を得るまでには、時間も労力も必要だった。繊維産業が海外に拠点を移すなか、どうすれば「日本の布」を守り、未来を描くことができるか。課題に押しつぶされず、乗り越えるために、自分たちにできることはなんなのか、常に問い続けてきた。
NUNOの創業から今年でちょうど40年。大いなる好奇心を原動力にリサーチを行い、「できない」という無言のブレーキをかけることなく職人や研究者たちとやりとりを重ね、自分たちだからこそできることをNUNOのスタッフと探り続けている。一点だけのアートピースではなく、暮らしに寄りそうプロダクトとしてのテキスタイルに重きを置く。繊維製品を取り巻く環境問題や社会情勢から目をそらさず、未来を見据えた素材選びと生産工程を見いだしていく。須藤にとってテキスタイルは、終わりのない旅のようなものなのではないだろうか。経糸と緯糸、どんな素材をどのように織るか、どのように染めるか、どのように仕上げるか。一枚の布が無限の表情を見せてくれる。誰に出会うか、誰とつくるか。どこに行くか、そこでなにをするか。点を面にする面白さは、尽きることなく続く。大小さまざまな点に可能性を見いだし面に織り込んでいく須藤の仕事を、この連載でさらに多くの人に知ってもらえれば嬉しい。